Feb 10, 2024 column

映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』にみる原作の恐怖を回避する方法

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原作に溶け込むオリジナル設定

主人公の夜間警備員・マイクは、トラウマを抱えている。それは、過去、弟を目の前で誘拐された経験だ。優しかった両親が変わってしまったのも、自分の仕事が続かないのも、すべては、これが元凶。マイクは、このトラウマを人生の軸としてしまっている節さえある。

しかしながら米国において、幼児誘拐は身近な社会問題。
FBIによれば、毎年76万5000人の子どもが行方不明となっており、これは40秒に1人の子どもが行方不明になっている計算だ。救出された子どもたちの一部は人身売買や児童労働搾取、性的虐待などの被害者とみられ、米国社会の闇のひとつである。

比較すると数は少ないが、日本も他人事ではない。警視庁によると、令和4年は全国で8万人超の行方不明者を記録。世代別にみると9歳以下1061人、10代1万4959人と20代に次いで10代以下の子どもたちが多く、統計の残る昭和31年以降で最少を記録した令和2年から総数が2年連続で増加しているそうだ。その原因に、米国同様、家出なども含まれると思うが、人身売買の被害にあっている可能性を否定することはできない。

主人公マイクは、毎晩夢を見る。毎晩、弟が何者かに連れ去られるシーンを明晰夢としてリプレイしている。明晰夢とは、夢を見ていることを自覚し,時にはそのストーリーを自分の思うように操作できる夢だ。 これにより誘拐犯の手がかりを思い出し、過去を変えられると信じている。ちなみに夢占いでは、過去に戻る夢を見た場合、現在、逃げ出したいと思うほど、つらい問題に直面している状態を意味しているそうだ。こういった方法にすがるしかないほど彼は現実に追い詰められている。

子どもから大人まで幅広い世代のファンが多いゲーム原作の設定に、その設定に至った理由を違和感なく補足するようにリアルな現実社会の闇を被せたのは見事だ。加えて、ゲームクリア、つまり映画でいうエンディングのために、家族の問題を解決しなければならないとしたところも映画のストーリーに深みを与えている。

本編の登場人物たちは、それぞれトラウマを抱えて生きている。彼らは、人生において目の前の事象に目を向けようと一歩前に歩き出す。この映画のストーリーは、単なるホラーゲームを基にしたホラー映画化では収まらないスキルとクリエイティビティを感じる。