Feb 04, 2023 column

『FALL/フォール』新ジャンル"超高所レジャー系"恐怖映画の楽しみ方

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アラ探しを忘れるくらいの面白さ

かといって、本作をセクシー美女が登場するB級映画だと、割り切ってしまうのももったいない。
この映画のタイトルは「TOWER」でなく『FALL/フォール』。つまり落ちてしまいそうな恐怖が、きちんと描いているので、ちょっとした違和感も気にならなくなるから不思議だ。

主人公たちがさびた鉄塔を登るたび、ハシゴはきしんで震え、繋ぎ目のボルトははずれかけていて今にも落ちそうな描写がアップでインサートされる。そんなこと主人公たちは梅雨知らず、ハーネスとロープ1本で頂上を目指していく。『ジョーズ』のテーマ曲がかかる、海中でサメが近づいてくるシーンと同様に観客の不安を煽る描写が効果的に挟み込まれている。

ドローンによる空撮も登頂描写のアップが続いた後に、画面が広がるので、広大な自然の開放感とともに、ちっぽけな主人公たちに、これから起こるだろうトラブルに胸騒ぎが抑えられなくなる。

危機的状況への対処に主人公たちの思慮が足りない部分もあるが、その描写は丁寧に映し出される。そして失敗した結果は、次の試みにきれいに繋がっていくスッキリ感もあるから楽しい。

地上300メートル以上で無風状態が続くわけがないという指摘はありそうだが、時折わざと無音にすることで、主人公が感じるであろう、高所での心許なさが伝わった。ツッコミどころとみるか、演出とみるかで、楽しさは変わってくる。

過去『海底 47m』(2017)を手掛けた、本作プロデューサーのジェームズ・ハリスは「まるで遊園地のアトラクションのようなものだ。高所は私たちの最大の恐怖のひとつだが、この映画はそれを最大限に引き出している」とコメントしている。

“スリリングな描写の数々は高所恐怖症ならずとも手に汗握ること間違いなし!”

こんなキャッチが付けられるだろうが、本当に手に汗握ったし、フリーフォールや宙ぶらりんのジェットコースターに乗ったようなドキドキもあった。劇場では難しいかもしれないが、足をブラブラさせて本作を鑑賞するのはいいかもしれない。

「人生は一瞬だ」「生きることを恐れるな」的なメッセージはあるけれども、単純にアトラクションだったし、難しいことを考えず楽しめるレジャー感がこの作品にはある。

個人的にはシリーズ化を願ってやまない。今回はフリークライミングが趣味といった設定だから超高層の鉄塔へ登ることはできた。鉄塔シリーズだと次回作で変化をつけるのは難しいだろう。先にも述べたが、この映画のタイトルは「TOWER」でなく『FALL/フォール』。超高層の塔にこだわらなくていい。
次作は寂れた廃墟の設定はいかがだろうか? それこそ閉館した遊園地のジェットコースターに乗るとか。主人公は動画配信者でもいいし、それじゃなくても、廃墟写真家でも悪くない。もちろん、キャスティングする美女はホラーのお約束は守っていただきたい。

文 / 小倉靖史

作品情報
映画『FALL/フォール』

山でのフリークライミングの最中に夫・ダンを落下事故で亡くしたベッキーは、悲しみから抜け出せず1年が経とうとしていた。ある日、ベッキーを立ち直らせようと親友のハンターが新たにクライミングの計画を立てる。今は使われていない地上600mのモンスター級のテレビ塔をターゲットとして選んだ彼女たちは、老朽化で足場が不安定になった梯子を登り続け、なんとか頂上へと到達することに成功する。そこでベッキーは夫の遺灰を空から撒くことで、彼を偲び、新たな1歩を踏み出す決意を示すが、それもつかの間、梯子が崩れ落ち、彼女たちに次々と困難が襲いかかる。自分たちの持つ技術と知識をフル活用して、どうにかこの危機を抜け出そうとするが‥‥

監督:スコット・マン

出演:グレイス・フルトン、ヴァージニア・ガードナー、ジェフリー・ディーン・モーガン、メイソン・グッディング

配給:クロックワークス

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公開中

公式サイト klockworx-v.com/fall