Feb 04, 2023 column

『FALL/フォール』新ジャンル"超高所レジャー系"恐怖映画の楽しみ方

A A
SHARE

フリークライミングを趣味とした女性たちが、現在使用されていないテレビ塔登頂に挑戦する計画を立てる。なんとか頂上へと到達するが、ハシゴが崩れ落ち地上600メートルの超高所に取り残されてしまう。彼女たちは、この危機的状況をどうやって抜け出すのか‥‥。映画『FALL/フォール』は、このようなサバイバル・スリラーだ。

いわゆる特異な状況での恐怖映画なのだが、舞台を超高所にしたことで、いままでのシチュエーション・スリラーとは違った魅力がある。超高層ビルでの災害を描いたパニック映画『タワーリング・インフェルノ』とも、高山でのサバイバル・アクション『クリフハンガー』とも違う、この新しいジャンル、みなさんと共有したい。

観ているだけでゾワゾワする高さ

当たり前だが、この映画は高所恐怖症の方にはおすすめできない。「ちょっと高いところ苦手」レベルでも最後まで観られるかどうか‥‥。逆に、地上58階建てのタワマンに住んでいる方でも恐怖感を味わえることを約束する。

例えば、東京タワーの展望台にあるスカイウォークウィンドウ。あのガラス床から下を覗くと背中がゾワゾワっとする、あの感覚が映画の大半を占めると言ったら分かっていただけるだろうか。

333メートルの東京タワーならまだいいが、本作の舞台である「B67 テレビ塔」は、東京スカイツリーにも匹敵する高さ。しかもサビだらけで老朽化が激しく細長く非常に頼りない。広い荒野にぽつんとあり、天まで続くかのような超高層鉄塔は、スクリーンで観るだけでも身の毛がよだつのだ。

『FALL/フォール』の舞台のほとんどが、テレビ塔の頂上にある小さな円形のプラットフォーム。人間が2人座ったら、それ以外余裕がない広さで落下防止の柵もない。剥き出しの景色は、ガラス床から見るそれより美しくて恐怖するものだ。

観客をも恐怖に包むこの超高所の撮影は、山頂に実際のサイズよりも低い塔の上部のセットを建設し、クレーンから俯瞰で俳優を撮影することで、地面を映さず上空にいるように見せている。そのため、出演者にも高所恐怖症でないことが求められた。

建設されたタワーは高さの異なる2種類。ひとつは航空障害灯というライトの部分を除いて約20メートル、もうひとつは、クローズアップを撮影するための1.5メートルの高さのプラットフォーム。強風でプラットフォームが揺れると「数字以上の高さを感じた」と監督のスコット・マンは述べている。

自然の中での撮影なので、セットが倒壊しそうなほどの暴風、雨、雷に見舞われたり、イナゴの大群やミツバチの大発生など虫との戦いもあったようだ。こういったこだわりや苦労の甲斐あって、300万ドル以下という超低予算ながら、それ以上の迫力ある映像演出に成功している。

このテレビ塔、モデルとされた鉄塔が実在する。1986年に建設された米国カリフォルニア州で最も高い建造物である、支線式鉄塔サクラメント・ジョイント・ベンチャー・タワーがそれだ。アメリカで4番目の高さを誇る625メートルの鉄塔には、命知らずの者たちが数多く挑戦し、頂点まで登り、ジャンプスーツひとつで降下する者が後を絶たないそうだ。要は、ちょっとアレな人たちが集まる名所らしい。