May 13, 2026 column

単なるドキュメンタリーでもコンサート映画でもない “没入型ライブ映画” 『EPiC/エルヴィス・プレスリー・イン・コンサート』

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リストアで再現される見事な映像と音響

映画の見どころは、まずはその音と映像の綺麗さだ。最新の技術で映像も音もリストアされ、綺麗な音と映像に蘇った。

おなじみの「ポークサラダ・アニー」では、途中に「モノローグ」をいれているが、これなど、その後1970年代後半に広がりを見せる「ラップ」的な側面、「ラップ」の原型のような感じさえした。

また、編集も実にうまい。「リトル・シスター」からビートルズの「ゲットバック」へつなげているところなど、見事だ。まるでライブ上でそのように演奏されているかのように聞こえる。

あるいは、その後大ヒットになる「バーニング・ラヴ」は、この映画撮影時点ではまだ練習中ということで、歌詞カードを見ながら歌っている。これがその後、きちんと録音され、そしてレコードになり大ヒットするということは、まさに新曲の制作現場を体験しているかのようだ。

音楽的に僕が個人的にもっとも気に入ったのは、エルヴィスが「これから1966年のゴスペル曲をやる」といって、「オー・ハッピー・デイ」を歌ったシーン。信心深かったエルヴィスは、幼少の頃から教会に行き、ゴスペルに親しんでいた。この「オー・ハッピー・デイ」は1967年にゴスペル・グループ、エドウィン・ホーキンズ・シンガーズが昔のヒム(讃美歌)をアレンジして出し、それが全米ポップ・チャートでも大ヒットになった。

同じことが、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」のカヴァーでもいえる。これは元々作者のポール・サイモンが昔のゴスペル曲にヒントを得て、生み出した1曲で、アリーサ・フランクリンなどのゴスペル色の強いヴァージョンもあり、ひじょうにゴスペルとつながりのある1曲なのだ。

エルヴィスの音楽的嗜好を360度捉えようとしたとき、ブルーズやゴスペル、そして、リズム&ブルーズなどのブラック・ミュージックの側面はもっとも重要な位置を占める。その中でこのゴスペル曲を選んでいるのは特筆に値する。

映画のサウンドトラックには27曲が収められているが、どれもエルヴィスの持ち歌としてよく知られている曲が多い。映画を通して見ていると、エルヴィスのライブにおける選曲のよさが際立つ。あたかも、エルヴィス・プレスリーの「ベスト・ヒット」のような趣に感じられる。