Jul 01, 2022 column

映画『エルヴィス』にみる“キング・オブ・ロック”ことエルヴィス・プレスリーの残した功績と、トム・パーカー大佐との関係

A A

エルヴィス・プレスリーといえば、今(2022年)ではすっかり「キング・オブ・ロックンロール」の呼び声も高いアメリカ音楽史上に残る偉大なレジェンドだ。その彼の伝記映画がいよいよ7月1日日本で公開された。

その公開に先駆けて去る6月28日都内でバズ・ラーマン監督、主演のオースティン・バトラーを招いたイベントが開かれた。質疑応答はほんのあいさつ程度だったが、ラーマン監督は、「コロナ禍のために製作が長く中断し完成しないかと思った」と心配したことを明かし、バトラーは、エルヴィスの自宅グレイスランドに一時期住み、エルヴィスを徹底的に研究し、エルヴィスを知ろうとしたという。また、バトラーは、「エルヴィスには双子の兄弟がいてすぐに亡くなった。母親もエルヴィスが若いころに死去、だからそうした人たちの魂をこの映画作品に込めなければならなかった」とあいさつした。また完成後、エルヴィスの未亡人プリシラに初めて見せる時、2人は大変緊張したが、彼女から誉め言葉をもらいほっと一安心したという。

たった42年のロックンロール・スターの生涯を描く2時間39分。観る前は長いなと思ったが、実際に観るとあっという間だった。実は1度観ただけでは咀嚼できずに、結局2度観た。もちろん、エルヴィス・プレスリーというロックの歴史に名を残すミュージシャン/アーティストの映画ということで、音楽が占める位置は大きいのだが、それよりも、ここでは無名の南部の田舎の一少年エルヴィスに才能を見出した出自の怪しい一人の人物、トム・パーカー大佐とそのエルヴィスとの関係にフォーカスした作品になっている。

ここでは音楽面でのエルヴィスと、トムとエルヴィスの人間関係という2点に絞って書いてみたい。ネタバレは最小限にするが、それでも伝記などである程度知られていることは出てくるので、観ることを決めていて事前に必要以上の情報をいれたくないという神経質な方は鑑賞後にお読みください。もし観ようか観まいか迷われている方はぜひどうぞ。

映画『エルヴィス』にみる“キング・オブ・ロック”ことエルヴィス・プレスリーの残した功績と、トム・パーカー大佐との関係

エルヴィスの音楽的ルーツ

エルヴィスは1935年(昭和10年 / イノシシ年)1月8日アメリカ南部テネシー州のメンフィスから車で小一時間程度の小さな田舎町テュペロに生まれた。夜になると月明りしか灯らない、月がなければ本当の真っ暗闇が訪れる、ラジオ局も2つくらいしかはいらない一面綿花畑のような田舎町だ。まだロックンロール誕生前夜。家にはもちろんテレビはまだない。10代(1945年~)の頃のエンタテインメントはもっぱらラジオ、若干のSPレコード程度だった。そんな中でエルヴィス少年の音楽的基礎教養になったのは、ラジオから流れてくるカントリー、ブルーズ、教会で聴くゴスペルといった音楽だった。

映画で描かれるのが、ブルーズの王者、B.B.キング、シスター・ロゼッタ・サープ、ビッグ・ママ・ソーントン、リトル・リチャード、そして、アーサー・ビッグ・ボーイ・クルーダップといったブラック・アーティストらとのつながり、さらに、ハンク・スノウなどのカントリー・シンガーの影響である。

映画ではB.B.キングとのやりとりも描かれる。メンフィスの音楽ライヴ・ハウスやレストランが立ち並ぶ有名な「ビール・ストリート」でのBBのライヴをエルヴィスが見に行くと、お互い「BB」、「EP」(エルヴィス・プレスリーの略)と呼び合うほどの親しさが描かれている。また激しい調子の歌で「トゥッティ・フルッティ」を歌うリトル・リチャードが出るシーンもある。アーサー・ビッグ・ボーイ・クルーダップや、画面には出ないが、「『キング・オブ・ロックンロール』は僕ではなく、ファッツ・ドミノだ」と言ってその名を出すファッツ・ドミノ、「ハウンド・ドッグ」をエルヴィスより先に録音してるビッグ・ママ・ソーントンらも登場。エルヴィスの音楽的ルーツがわかるようになっている。

映画『エルヴィス』にみる“キング・オブ・ロック”ことエルヴィス・プレスリーの残した功績と、トム・パーカー大佐との関係

エルヴィスがそうしたブルーズ、ゴスペルのようなブラック・ミュージックの影響を受けたことはこの映画を観るとより明らかになるが、ではエルヴィスがそうしたブラック・ミュージック、ブラック・アーティストを搾取したのかというテーマは常に語られてきた。

それは、今回の字幕監修をされている湯川れい子さんがマイケル・ジャクソンに「なぜエルヴィスで有名な『ハートブレイク・ホテル』などというタイトルの曲を歌ったのか」と尋ねたとき、マイケルは烈火のごとく「エルヴィスは僕たちの黒人音楽を盗んだんだ」と怒りを露わにしたという逸話に象徴される。最近も「ウェスト・コースト・ゲット・ダウン」(ロスをベースに活躍する若手ジャズ・ミュージシャンのユニット)のメンバーの一人であるテラス・マーティンが現在は削除されているが、エルヴィスについて否定的な文言をツイッターで出した。

エルヴィスに限らず、パット・ブーンもファッツ・ドミノやリトル・リチャード、アイヴォリー・ジョー・ハンターなどのブラック系アーティストをカヴァーし、多くの場合オリジナルのブラック・アーティストよりも白人であるパット・ブーンの方がよりヒットしている。エルヴィスやパットの後には、ビートルズやローリング・ストーンズがブラック・アーティストの曲をカヴァーし、ものによっては世界的ヒットにしたてている。

映画『エルヴィス』にみる“キング・オブ・ロック”ことエルヴィス・プレスリーの残した功績と、トム・パーカー大佐との関係

これは僕の持論なのだが、非常にプリミティヴ(原始的、素朴な)な音があった場合、その泥臭さを脱色し薄めていけばいくほど、一般的な人気が高くなっていくということがある。泥臭いブラック・アーティストのオリジナルのものを白人のアーティストが、少し洗練されたものにすると、より一般的支持が高まる。エルヴィスやビートルズ、ローリング・ストーンズ、エリック・クラプトンなどもそうだ。それゆえに、オリジナルを作った者は白人にカヴァーされ、自分のものより多く売れると「怒る」というパターンがよくみられる。

もちろん、黒人視点から見れば搾取された、ということになるが、白人視点から見ると、白人がカヴァーしたことによって、世界中に広がった、広げたということになる。よって黒人アーティストの多くがエルヴィスのことをディスることも理解できる。