Oct 22, 2022 column

ドキュメンタリー『こころの通訳者たち』で考えたい映画と障害、そして伝えるということ

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お互いに分からないことを伝えあう

劇中演劇「凛然グッドバイ」は、「穂の国とよはし芸術劇場 PLAT」が、障がいの有無や年齢、性別、国籍などに関係なく、すべての人がこの場所に集い、文化芸術に触れることができる劇場を目指して、2019年9月に TA-net(シアター・アクセシビリティ・ネットワーク)と共に取り組んだ舞台手話通訳養成講座の受講者の実践の場として、2021年2月に上演されたものだ。

そして舞台手話通訳とは 演劇を聴こえない人にも楽しんでもらうため、舞台作品の進行に合わせて手話で台詞や情景を伝える同時通訳のこと。通常の手話通訳とは異なり、演出家の指導のもと、通訳者も1人の出演者として役者と同じ衣装を着て舞台に立つことになる。

登場する手話通訳者は3人。1名、兼業俳優がいるものの、うち2人は舞台出演自体が初体験だから、その苦労は相当だったろう。実際、音声ガイド制作の打ち合わせ当初、自分の当時の思いを力説し、それが伝わっていないと吐露している。

ドキュメンタリー映画『ようこそ 舞台手話通訳の世界へ』は、舞台上で手話の同時通訳をする人々がメインであるため、言葉を発さず、動きと表情で伝える手話にも音声ガイドを付けなければならない。ということは、役者のセリフと被らざるを得ない。くわえて、手の動き自体を説明するのではなく、その意味を説明しようと試みたから、より大変となる。

なぜなら、打ち合わせのなかで、手話は文章ではなく、ラベルという単語を組み合わせるもので、劇中セリフの翻訳は個人に任されており、その表現方法は人によって異なることを知ることになるからだ。

こうして、聴こえない人の翻訳者の苦労を見えない人の翻訳者である劇場側が、対話を重ねることで新たな発見をし、理解を深めていく。

モニターとして参加した視覚障害たちも、自分とは異なる障害者の言葉や、その違いを知ることで自分の世界を広げていく。

やがて、この前人未到のチャレンジを諦めなかったメンバーたちは、言語を超え、障害のあるなしを超えて、心を繋いでいくのだ。

障害者からみた映画視聴環境

さて、障害をテーマにした映画は多数あるが、障害のある人たちは、映画をどうやって観ているのだろうか?

近年、邦画でも音声ガイドに対応していたり、聴覚補助システムを無料で貸し出したりしている映画館がある。字幕や手話の表示、音声ガイド再生等を行うことのできる無料アプリ「UDCast」が全国の映画館で導入されているのだ。しかしすべての上映作品に対応しているわけではないため、上映日時や場所は限られている。

では、配信作品はどうか?

現在、日本国内のNetflixでは、主に音声ガイド(副音声)機能とCC(クローズドキャプション)機能を利用することができる。音声ガイドが利用できるのは156作品(2022年10月現在)。Netflixオリジナル作品が中心でアニメが多く、新作映画は少ない。

Amazon Prime Videoの場合、副音声で”日本語 [音声による説明]”が選べる作品が対象となる。こちらもタイトル数は少ないがいくつか存在する。ただNetflixと違い、キーワード検索で、音声ガイド付き作品を検索することはできない。

Huluでは、アニメ、映画の他、日本テレビ系のドラマ・バラエティ番組を聴覚障害者のための字幕ガイド付きで提供している。視覚障害者に向けては「恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~」解説放送版を先駆けとし、「あなたの番です」音声ガイド版など、人気ドラマの対応が増えているようだ。

しかし、多くの映像作品が見放題が売りのサブスクリプションで、その対応数は障害者にとって魅力的に映らないかもしれない。

視覚障害者向けの「スクリーンリーダー」という画面を音声で読み上げるソフトがあるが、互換性を確保すべく取り組んでいるらしいが、配信側が管理・制御できるものではないため、突然機能しなくなる可能性もある。

ユニバーサルデザイン的な取り組みは行われてはいるものの、まだまだ向上の余地があるというのが現状だ。