決して目を背けてはいけない作品
本作のリアリズムを支えるのが、ヨーロッパ各地から集結した実力派のキャストたちだ。レガソフを演じるのは名優リチャード・ハリスの息子にして、自身もロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身で、ドラマ『マッドメン』や映画『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』(11年)などで深い印象を残した実力派俳優ジャレッド・ハリス。本作でも抑圧的な国家の中にある科学者としての己の立ち位置と、自身の良心で揺れ動くレガソフの葛藤を見事に体現し、ドラマに真実味をもたらしている。
彼とともに事故の調査にあたり、多くの苦難を乗り越えながら、やがて強い信頼関係を築いていくシチェルビナを演じるのは、スウェーデンの名優ステラン・スカルスガルド。かつてない事故の最前線で、数々の苦渋の決断を下すことになるシチェルビナを圧倒的な人間味で演じ切っている。そんな彼とラース・フォン・トリアー監督作『奇跡の海』(96年)で共演したエミリー・ワトソンが、事故の真相究明に奔走する核物理学者ウラナを演じている。彼女は原子炉の欠陥を隠そうとした旧ソ連の事故調査に反論した勇気ある核物理学者たちからインスパイアされた架空のキャラクターだが、ワトソンはしっかりと地に足が付いた存在感で、ウラナの人間性を体現している。この実力派3人の重厚なアンサンブルが、ドラマのクオリティを何段階も引き上げていると言えるだろう。
リアリズムに満ちた社会派エンターテイメント作品として、IMDbやRotten Tomatoesといった批評サイトでもかつてない高評価を得ている本作。だがリアルであるがために、東海村JCO臨界事故や、福島第一原子力発電所事故を経験してきた日本人にとって『チェルノブイリ』はあまりに衝撃的であり、センシティブな内容だ。それでもやはり目を背けてはいけないと思うものが、このドラマにはある。事故当初、ソ連がその被害実態を世界に隠そうとした様相に、日本も世界に向けて「アンダー・コントロール」と言い放ったことを思い出さずにはいられない。チェルノブイリの事故を踏まえたからこそ、新たな対応策があったように、決して同列に語れるものではないが、もう過ぎたことで済まされるものでもないはずだ。事故から30年を経て、改めて原発事故の教訓を世界に問うたこと。それこそが『チェルノブイリ』の大きな意義なのだ。
文/幕田千宏
1986年4月26日未明、チェルノブイリ原子力発電所で爆発が起こる。未曾有の原発事故の発生に冷戦下の旧ソビエト政府が事態を隠蔽しようとする中、被害の拡大を少しでも抑えようと必死に闘った英雄たちがいた。あの時、現場で何が起きていたのか――。
監督:ヨハン・レンク
脚本:クレイグ・メイジン
製作総指揮:キャロリン・ストラウス ほか
出演:ジャレッド・ハリス、ステラン・スカルスガルド、エミリー・ワトソン、ポール・リッター、コン・オニール、デヴィッド・デンシック、アダム・ナガイティス、ジェシー・バックリー
Amazon Prime Video チャンネル内「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」にて配信中
BS10スターチャンネルにて独占日本初放送中
全5話
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