May 28, 2022 column

第12回:米HBO Max話題の人気ドラマ

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アメリカ映画協会として知られていたモーション・ピクチャー・アソシエーション(MPA)によると、米国内の動画配信サービスの需要は前年から14%増え、さらなる覇権争いが続いている。動画配信サービス企業は、集まった視聴者を逃さないよう、新コンテンツを季節がわりに更新し、話題を絶やさないように奮闘。今春スタートしたシリーズの話題のトップは米HBOMax。日本ではU-NEXTが、去年、独占契約したそうで、日本でも質の高い海外ドラマが順次配信されるに違いない。セカンドシーズンが確定した注目ドラマをここで紹介したい。

「Minx」Katrina Marcinowski © HBO Max

NBA ロサンゼルス・レイカーズを描く「Winning Time : The Rise of the Lakers Dynasty (原題)」

登場人物を過剰に具象化しすぎたことで、訴訟問題まで巻き起こしているドラマが「Winning Time : The Rise of the Lakers Dynasty(原題)」。物語はNBAバスケットボールで有名なロサンゼルス・レイカーズの80年代黄金期を描いていて、ジェフ・パールマンという元スポーツ・イラストレイテッド誌のライターが書いた2014年のベストセラー本が原案。

シリーズが始まった当初から、元レイカーズ選手から非難が上がっていて、元選手でコーチだったジェリー・ウェストは制作プロダクションからの謝罪を要求。さらに、放送済の内容の再編集まで要請するなど、怒りをあらわにしている。伝説の選手カリーム・アブドゥル=ジャバーは「故意に事実を捏造した内容だ」とドラマの信憑性を疑問視。シリーズのほぼ主役となっているマジック・ジョンソンは、「僕は一切、このドラマを観るつもりはないよ」とバラエティ誌のインタビューで断言。

ドラマはSEX, ドラッグ、バスケットボールと派手な映像で畳み掛け、登場人物が視聴者に向かって語りかけるという「第四の壁を破る」構成になっていて、ある意味、作り物であることが分かる手法で、笑いを誘う。エグゼクティブ・プロデュースは映画監督のアダム・マッケイ。大ヒットTV配信シリーズ「メディア王~華麗なる一族~」の成功に続く作品で、配信競争を勝ち抜く話題は絶えない。

配役は、若きマジック・ジョンソン役を新人クインシー・イザイアが好演。80年代にレイカーズの新オーナーとなった故ジェリー・バスを『リコリス・ピザ』のジョン・C・ライリー。その母役をベテラン女優、サリー・フィールド。レイカーズのコーチとして活躍した有名なパット・ライリーの役は、映画『フレンチ・ディスパッチ』の男優エイドリアン・ブロディと、豪華な顔ぶれである。

「Winning Time : The Rise of the Lakers Dynasty」Warrick Page © HBO Max

ジュリア・チャイルドが主人公の新ドラマ「Julia(原題)」

アメリカ料理研究家ジュリア・チャイルドの伝記は、何度も映画やTVで扱われたが、今春スタートした米HBOのドラマシリーズ「Julia(原題) 」は格別。大ヒット海外ドラマ「マーベラス・ミセス・メイゼル」のクリエイター、ダニエル・ゴールドファーブがスタートさせたこの第1シリーズは、米公共テレビ初の料理番組を素人のジュリア・チャイルドがどのようにスタートさせたかという1963年のエピソードから始まっている。

ジュリア・チャイルドの料理家になる前の経歴は有名で、由緒あるカリフォルニア一族の娘として生まれ、CAAの前身であるスパイ組織で、第2次世界大戦中働いていたという。そこで知り合った夫の仕事でフランスに移り住み、料理に目覚めたそうだ。物語はすでに仏家庭料理の本「Mastering the Art of French Cooking(原題)」の共同著者として評価を得ていたジュリアが、本の宣伝番組収録のためにTV局に招かれるところから始まる。スタジオに電気コンロを持ち込んでフレンチオムレツを作り、局員、そして視聴者をTVに釘付けにしたジュリアは、カメラの前で料理をするという経験に味をしめる。60年代当時、カラーテレビは一部の家庭に普及していただけで、ジュリアの夫もテレビを見る行為を邪道とし、買うことすら反対していたという。自らの料理番組を実現するために奮闘するジュリアの姿は、人生の折り返し点に立った50歳の女性の心情をこまかく描いていておもしろい。

「Julia」Seacia Pavao © HBO Max