Oct 22, 2019 column

HBOの本領発揮、傑作ドラマ『チェルノブイリ』が暴く原発事故の真相

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『ゲーム・オブ・スローンズ』のHBOが製作し、『ブレイキング・バッド』『ウォーキング・デッド』のヨハン・レンクが監督、ヨーロッパの実力派俳優が集結した超ド級の社会派エンターテイメントドラマ『チェルノブイリ』。人類史上最悪の原発事故はいったいなぜ起こったのか。事故発生時の様子と、隠蔽を図る国家とその顛末までを克明に描いた圧倒的なリアリズムと、サスペンスフルな真相究明劇が融合し、世界中から称賛の声を集めた本作の魅力に迫る。

未曾有の大事故を描く社会派ドラマ

人類史上最悪の事故と称されるチェルノブイリ原発事故。その発生から30年以上の時を経て、あの日、あの時、そしてその後、チェルノブイリで何が起こっていたのか、その真実を圧倒的なリアリズムで描いたのがドラマ『チェルノブイリ』だ。

旧ソ連のウクライナ共和国にあるチェルノブイリ原子力発電所の4号炉で事故が起こったのは1986年の4月26日。炉心はメルトダウン後に爆発し、放射能性物質が広い範囲を汚染した。発電所の従業員と家族が住民の大半を占めるプリピャチ市を中心に、避難区域は2600平方キロメートルにも及び、約30万人もの周辺住民が避難を余儀なくされた。

過去に前例のない、それゆえに事態は悪化の一途をたどった。当時のソ連では自国で開発されたRBMK炉(黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉)が事故を起こすなどあり得ないとされ、その前提があるがゆえに、現場の人間が危険を訴えても、チェルノブイリ原発の責任者たちは事故を過小評価してしまった。国家は高線量の放射性物質が検出されたスウェーデンのフォルスマルク原子力発電所からの問い合わせがあるまで、世界にも事故が起きたことを隠そうとし、周辺住民の通信は遮断。住民はもちろん、消火活動に努める地元消防士たちにも真実は知らされず、避難が開始されたのは事故から約2日後だった。

後に明かされる原子炉の欠陥と、ヒューマンエラーが生んだ負の連鎖。これが未曽有の大事故の正体だ。ドラマは事故から2年後、現地に派遣された核物理学者ヴァレリー・レガソフ(ジャレッド・ハリス)のウソの代償についての独白から幕を開け、そして事故当日のチェルノブイリへと舞台は移っていく。事故が起こった夜、対処に追われる現場作業員たちの必死さとは裏腹に、プリピャチの住民たちは青白い不思議な光を発するチェルノブイリ原発を眺めながら、「美しいね」とまるで花火でも見ているかのような言葉をつぶやき、やがて雪のように舞い散る死の灰の中では、子どもたちが無邪気にはしゃいでいる。後に彼らを待ち受ける悲劇を思うと、そのあまりに静謐で、牧歌的な風景が切ない。だがそんな住民たちの日々も、事故の収拾と現場検証のために来たレガソフの到着によって、たちまち霧散していくことになる。