Oct 22, 2019 column

HBOの本領発揮、傑作ドラマ『チェルノブイリ』が暴く原発事故の真相

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見事な構成と脚本、エミー賞を席巻

「1時間ごとに広島原爆の2倍相当の放射線を放つ」と、事故がもたらす被害を冷静に語るレガソフに、最初は官僚主義的だったソ連の閣僚会議の副議長にして、エネルギー部門の責任者として事故の対応にあたったボリス・シチェルビナ(ステラン・スカルスガルド)も事態の深刻さを悟る。原子力については素人知識しかないシチェルビナに、原子力の専門家であるレガソフが懇切丁寧な解説をすることで、彼を納得させると同時に、同じく素人である視聴者に対する説明も違和感なくなされる構成はじつによくできている。

知識としての原子力の脅威は、ほどなくビジュアルとしてもその悲惨さをまざまざと見せつける。高線量の放射線にさらされ続けた現場作業員や消防士たちは、急性放射線障害に陥り、なす術もなく肉が崩れ落ち、苦しみ抜きながら命を落としていく。そのあまりに生々しい姿は、言葉を失うばかりだ。一方で、危険を知りながら決死の事故収拾にあたった“リクビダートル”と呼ばれる現場作業員の真に英雄的な姿に胸が熱くなる。

事故の悲惨さが浮き彫りになるにつれ、ドラマはなぜありえないはずの事故が起こったのかという真相究明へと発展していく。レガソフの依頼で核物理学者ウラナ・ホミュック(エミリー・ワトソン)が事故当事者の証言を集めるようになると、さながらサスペンスのような空気が生まれてくる。死が迫る中、真実を訴える職員に対し、部下に責任を押し付ける上司。原子炉の欠陥を認めたがらず、現場のミスとして収めたい旧ソ連の国家保安委員会の思惑。国家の圧力と科学者としての矜持、そして人間としての良心の間で葛藤しながら、懸命に真実を追う姿は胸に迫る。大げさな演出は一切ないにも関わらず、さまざまな感情が揺さぶられる脚本は見事と言うしかない。

エンターテイメント性を保ちながら、徹底したリアリズムを追求した本作を製作したのは『ゲーム・オブ・スローンズ』で知られる米プレミアムケーブル局のHBOだ。事故から30年以上が経過したいまでも立ち入り禁止区域となっているチェルノブイリ原子力発電所と周辺地域を映像化するため、景観が似ているリトアニアの廃炉となった原子力発電所でロケを敢行し、当時の街並みは高度なCGで再現。2019年のプライムタイム・エミー賞ではリミテッドシリーズ部門で作品賞を含む10部門で受賞し、まさにクオリティドラマの代名詞となっているHBOの本領が発揮された形だ。

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