Feb 18, 2023 column

『ボーンズ アンド オール』 夜を生きる恋人たち、傷の向こう側へ

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夜を生きるマレンとリー

『ボーンズ アンド オール』には、若い2人によるロードトリップが描かれている。本作は校舎に飾られた絵画のショットから始まる。アメリカの広大な田舎の風景、広すぎる空が描かれた風景画。2人が生きる郊外の風景だ。本作を撮ることが決まった際、ルカ・グァダニーノはウィリアム・エグルストンの写真集を自宅の本棚から取り出したという。ウィリアム・エグルストンの写真に登場しそうなブルーのピックアップトラックに乗って2人は旅をする。

このピックアップトラックが素晴らしい。「リー」、「マレン」。2人が車に乗って初めてお互いの名前を告げた瞬間から、この車内空間には2人だけの時間が流れ始める。マレンとリーは代わり代わり運転をする。若き撮影監督アルセニ・ハチャトゥランの捉えるアメリカの空、フィルムの粒子が美しい。

ティモシー・シャラメが演じるリーというキャラクターには、ルカ・グァダニーノが手掛けた傑作ドラマ『僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE』(2020)のフレイザーの面影を感じずにはいられない。イタリアの米軍基地に暮らす少年フレイザー。母親(クロエ・セヴィニー)に平手打ちを食らわせた次の瞬間、やさしく抱きしめられ、感情の仮面をあっさり剥がし崩れ落ちる脆く繊細な少年のイメージ。

リーには捕食の欲望のためなら人を騙すような狂暴性と、なにより孤高のカリスマ性があるが、マレンの感じている不安にはいつも敏感だ。そしてティモシー・シャラメが指摘するように、リーはこの追放された世界で彼自身のガラスの城を築いている。生き残るためのシステムを自力で発見しようともがいているのだ。

ルカ・グァダニーノはアニエス・ヴァルダの『冬の旅』(1985)とシャンタル・アケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(1975)等を参考作品としてメインキャストの2人に提示したという。『冬の旅』のモナ(サンドリーヌ・ボネール)のような何者にも屈することのないホームレスのヒロインの反抗性とは異なり、親に捨てられたマレンには、未成年による価値観の大きな揺れ、罪悪感、脆さを強く感じ取ることができる。しかしリーと過ごす時間を除き、あまり感情を表に出さないマレンの仮面の下には、モナと似た感情の震えが刻まれているといえる。ルカ・グァダニーノはこれらの参考映画を「徘徊する人々についての映画」と定義づけている。夜を生きる恋人たち。

ウィノナ・ライダーとアンジェリーナ・ジョリーを始めとするアンサンブルが素晴らしい『17歳のカルテ』(99)に感銘を受けたことが俳優になるきっかけだったというテイラー・ラッセル。ティモシー・シャラメの忘れられない身振りを一つ一つ瞳に焼き付けていくようなリアクションの素晴らしさ。そしてふとした瞬間に爆発する彼女の獰猛さ。「野生の少女マレン」。マレンの髪型は、同じくカニバリズムが描かれた『羊たちの沈黙』(91)のステイシー(ローレン・ロッセーリ)というキャラクターからインスピレーションを受けているという。