Sep 30, 2017 column

20%を超えない時期も内容に自信があった。制作統括が語る視聴者と作り手との繋がり。

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全員、幸せになるけれど

 

──さて、当初、みね子(有村架純)の10年分くらいの話を描く予定だったところが、4年間に短縮されたのは、なぜなのでしょうか?

17歳から21歳の4年ですね。10年分の設計図はあったのですが、ひとりひとりのことを丁寧に描いていくと、各エピソードが伸びていき、実さんと再会するのも予定より遅くなりました。丁寧に描いていたからこそ、途中で、ちよ子(宮原和)と進(髙橋來)を代替わりさせたくないという話にもなったんです。今、ちよ子役の宮原さんが中学1年生で、進役の高橋君が3年生なのかな。4年間だとギリギリ彼らでやれますが、10年も経つと、進は高校生になるから、当然、俳優を替えないといけない。例えば、そこまでお父ちゃんが見つからなかったら、「父ちゃん!」と言われても、わからないに決まっていると冗談を言っていたのですが(笑)。木村佳乃さんも、「どこかで交代しちゃうの?」と心配していたし、有村架純さんも打ち上げでふたりが交代しなかったのがよかったと言っていたほど、みんな仲が良かったです。

──描かれなかった6年分、続きがあるのではないかという期待も持たせますね。

そうやって、続きが観たいという声も頂けて、幸せな番組だったと思います。ただ、続きは、すぐにはできるものではありません。脚本を作って、キャストの皆さんを集めて……となると、時間がかかりますし、このキャストが全員集まるのは難しいかもしれませんね。さっきもお話しましたが、全員を集めるのはかなり大変なので(笑)。

──スピンオフはないんですか?

いまのところないです。岡田さんも、最初から、スピンオフも本編に盛り込むつもりで書いたと言ってました。

 

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──ひとりひとりの物語をスピンオフで独立させるのではなく、1本の物語の中に組み込んでいく、まさに群像劇です。その分、キャラクター性が強くなって、最初にあった社会性は影を潜めていきましたが、それはどのように考えていたのでしょうか?

そもそも、岡田さんは、高度成長期の話を書くに当たり、あの頃は良かったというノスタルジーで描くのではなく、今よりもっと理不尽なことがあったということは描きたいと言っていました。だからこそ、はじめのうちは、谷田部家の経済状況を細かく描いています。実の失踪も、あの時代は蒸発が多くて、警視庁が一斉行方不明調査をやっていたくらいで、決して明るくのほほんとしていない。そういうリアルな現実を時々入れていました。特徴としては、全編通して、登場人物がたびたび戦争のことを語ります。それについては、打ち合わせの時に、そんなにみんな戦争の話をするだろうか? と議論にもなりましたが、思えば、あの当時が、戦争の記憶が塗り変えられた時期で、未だ、駅には傷痍軍人の姿もあった。だから、今の感覚ではなぜ? と思うかもしれないが、『ひよっこ』の時代は、ふだんはふつうに楽しくしていても、実際、ふと戦争を思い返して語ることがあることは自然だと思う、と岡田さんは言っていました。

──戦争の記憶があるからこそ、登場人物たちは、他者と仲良くしたい気持ちが強いのかなと思って観ていました。

あの時代、東京の人口が1千万人を超えて、ドラマの終わりの頃では、GNPで2位になったりもして、イケイケに見えるのですが、その一方で、農村が疲弊して、減反政策がはじまります。農家にとっては大打撃で、そこで、みんな都会に来て、核家族化が急激に進みます。谷田部家みたいな関係が急激に崩れていく転換期なんです。それをクールに社会問題として提示するわけではなく、ちょっとだけその影を感じさせるように描きました。例えば、幸子(小島藤子)と雄大(井之脇海)が団地に入居することは、それこそ核家族のはじまりです。

──なんだかんだありながら、最後はみんな幸せになります。成功しない、成就しないことが続いた『ひよっこ』でしたが、結果的にみんな成就するという仕組みだったとは思いますが、みんなが幸せになり過ぎじゃないでしょうか(笑)。

みんな、急激に幸せになりますもんね(笑)。ひとりひとりに愛情を注いで描いていたから、ひとりだけ幸せじゃない人を、なかなか描けなかったのではないでしょうか。でも、大丈夫です、元治(やついいちろう)は変わっていませんから(笑)。多分、ラーメン屋の女の子とはなんともなっていません(笑)。

──視聴率が最初、20%に満たなかったのが、後半上がりましたが、最初はどう思っていましたか。

いつから、20%を割ったら不調で、超えたら絶好調という基準ができたのかと思っていました(笑)。というのは半分冗談ですが、しばらく20%を超えない時期が続いた時も、それほど不安に思っていませんでした。内容は自信があったので、大丈夫だよと話をしていました。というのは、とても丁寧な長文の手紙がたくさん来ていたからです。ふだん、視聴者の感想は、はがきが多いのですが、『ひよっこ』には手紙が多かったんです。みね子と同じ世代だった方々が感想をくださって、途中から自分の体験談になったりしながら、このドラマをきっかけに、家族で話ができるようになったというようなことが書いてあるんです。いまだに、毎日7、8通は届きます。それらを、撮影スタジオのキャストが集まるところに貼って、いつも励みにしていました。

 

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撮影 / 田里弐裸衣

 

プロフィール

 

菓子浩(Hiroshi Kashi)

1968年、富山県生まれ。朝ドラ『ちりとてちん』の演出などを経て、2009年よりプロデューサーに。朝ドラでは『ウェルかめ』『あまちゃん』『ひよっこ』。他に、『金魚倶楽部』、『それからの海』、『はつ恋』、『ヒカルの掃除』、『さよなら私』。
影響を受けたドラマは、唐十郎作、三枝健起演出『安寿子の靴』、『匂いガラス』など。

 

ドラマ紹介

 

連続テレビ小説『ひよっこ』

連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
脚本:岡田惠和 出演:有村架純ほか  全156回
最終回は、9月30日(土)

木俣冬

文筆家。著書『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説 なつぞら」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など。 エキレビ!で「連続朝ドラレビュー」、ヤフーニュース個人連載など掲載。 otocotoでの執筆記事の一覧はこちら:[ https://otocoto.jp/ichiran/fuyu-kimata/ ]