──よく現場のノリで脚本にないセリフが足されることがあると聞きますが、ちゃんと台本に書いてあるんですよね。
そうなんですよね。
──今回は「ザ・北川さんワールド」なので、あんまり現場でアドリブ入れるようなことはない?
ないですね。むしろ、本当に忠実に北川さんの脚本を映像化することを心がけています。
──北川さんは、以前もハンディキャップを持った主人公のドラマを描いていらっしゃいますが、今回、主人公がハンディキャップを持っている設定はどなたのアイデアですか。
主人公が片耳を失聴している設定は、もともと『半分、青い。』の企画を北川さんが持ち込まれたときからありました。たぶん、企画書を最初に書かれたときは、ご自身が左耳を失聴されて間もなかったと思うんです。その企画の骨子は、片耳が聞こえず、片側しか雨の音が聞こえなくても、その雨があがって晴れたときに『半分、青い。』と言えるような前向きな発想力とバイタリティのあるヒロインを描きたいというものでした。そのときからすでに『半分、青い。』というタイトルもついていたんですよ。話し合いは、その企画をどう膨らませていくか、というところからはじまりました。
──ハンディキャップを持ったヒロインは、これまでの朝ドラではなかったかなと思いますが。
なかったですね。たぶん、もう少し前だったらこの企画は通らなかったかもしれません。それが、放送の年2018年にはパラリンピックがあり、ハンディキャップへの理解の土壌が以前よりしっかりできているのではないかということも、すんなり通った一因ではないかと思います。それと、私は以前に一度、ハンデのある方を題材にしたドラマを作ったことがありまして、一作で終わらせず、引き続きテーマとして追求していきたいと思っていたのです。(注:ただし片耳失聴は国から障害として認定されていない)
──勝田さんが演出をやっていた『ゲゲゲの女房』(10年)は、主人公の夫(向井理)が左腕を戦争で失くしています。考えてみたら、朝、片腕のない人が出てくることはなかなかショッキングなことだったのではないでしょうか。
確かにそうですね。あのときは、“水木しげる”さんというアイコンがあったので、自然に受け止めていただけたのではないでしょうか。たぶん、誰も“片腕のない人の物語”とは見ていなくて、あくまでも“水木しげるさんご夫婦の物語”として見ていたと思います。
──『ゲゲゲの女房』の話が出たついでに、忘れないうちに聞きたいことがあって。岐阜クランクイン取材会に伺わせていただいたとき、鈴愛がふくろう商店街を『世界で一番熱い夏』を歌いながら踊って走ってくる場面を撮るカメラの前にガスコンロが置いてあって、陽炎が立つ画面はこういう風に撮るのか、と思って見ていたんです。そして、勝田さんにお会いするので『ゲゲゲの女房』を見直していたら、勝田さんの演出回にも、夏の陽炎が出てきました。
そんなところまで見ていただいてありがとうございます(笑)。
──あのときもコンロで?
コンロでやりました。『陽炎持ってきて』って言ったら必ずコンロが出てきます(笑)。