Jun 13, 2019 interview

湯浅政明監督が作品に込める裏テーマとは?『きみと、波にのれたら』制作秘話を語る

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永井豪の伝説的コミックを完全映像化したNetflix配信アニメ『DEVILMAN crybaby』(18年)や森見登美彦の少し不思議な小説世界をアニメーションならではの表現で映画化し日本アカデミー賞最優秀アニメーション賞を受賞した『夜は短し歩けよ乙女』(17年)など、注目作が続く湯浅政明監督。アヌシー国際アニメーション映画祭グランプリにあたるクリスタル賞を受賞した『夜明け告げるルーのうた』(17年)に続くオリジナル新作映画『きみと、波にのれたら』は、躍動感溢れる軽快なラブコメタッチの青春アニメとなっている。「自分に自信が持てずにいる人たちに観てほしい」という湯浅監督が、その心情を語った。

悩みのなさそうな人気者にも葛藤がある

──『きみと、波にのれたら』は「人生の波」がテーマとなっている作品ですが、サーフィンという題材はすぐに決まったんでしょうか?

前作『夜明け告げるルーのうた』の流れで「また、やろう」ということになったんです。ストーリーを話し合っているうちに、女の子はサーファーにすることになりました。僕は未知の世界を見てみたい、知らない人たちと出会ってみたいという気持ちがあって、自分から一番遠いのがサーファーだろうと思ったんです(笑)。それでヒロインのひな子(声:川栄李奈)はサーファーに。主人公の港(声:片寄涼太)は消防士ですが、これも僕が知らない世界。それで、波に乗るサーファーと火を扱う消防士の物語になったんです。

──「自信を持てずにいるすべての人へ」というフレーズがコピーとなっていますが、このアイデアは誰のものでしょうか?

『ルーのうた』も手掛けてくれた脚本家の吉田玲子さんの脚本に「ひな子は自信がない」というニュアンスが入ってきて、それはいいなと僕も思ったんです。ひな子はまだ雛のように幼く、港が陸へ引っ張ってゆくイメージがあったので、自分の周りも含めて、自信が持てずにいる人って多いような感触があったんです。みんな自分の弱さを普段は見せないようにしているけど、実はどこか自信が持てずにいるんじゃないのかなと。それで、港とひな子、港の後輩と港の妹、それぞれ自分に自信が持てずにいる4人がお互いを助け合う、お互いがヒーローなんだというテーマになっていったんです。

──サーファーって、イケイケなイメージがありますが、必ずしもそうではない?

僕も以前は分からなかったんですが、映画『桐島、部活やめるってよ』(12年)がすごく面白かった。学校で一番の人気者でも悩みがあるんだなと。一見、悩みのなさそうな人気者でも話をじっくり聞いてみると、その人なりの葛藤があることに気づいたんです。ひな子はサーフィンは得意だけど、本気でプロのサーファーを目指しているわけではなく、これから就活もしなくてはいけない。実社会には出ていくことが出来ずにいるわけです。一見すると何でも器用に出来るように見える港ですが、実は港はひな子から勇気をもらっている。自分の失敗している姿を他人に見せたくないという気持ちは誰にもあると思いますが、もっと気軽に波に乗ってみようよと。そういう想いで、今回の作品は作っています。結構生きづらい世の中で、でもまっとうに生きている人たちの姿を見ると、「あっ、この人はこんなにも優しく生きているんだ」と思えて、僕自身が応援されているような気分になるんです。

──登場キャラクターの中で、湯浅監督に一番近いのは?

やっぱり、港でしょうか(笑)。僕も自信がないっちゃ、ないんですよ。でも、自分から飛び込んでいけば、世界は広がっていくわけです。それが面白くて、新しいことに挑戦しているんだと思います。サーフィンはしたことはありませんが、サーフィンのアニメーションを作ることはやっぱり楽しいんです。実際にサーフィンをやっている方たちに会っていろいろ話を聞いたんですが、ガチでサーフィンに打ち込んでいる人もいれば、生活の中で出社前の早朝にサーフィンを楽しむ人もいる。いろいろなんです。サーフィンにはショートボード、ロングボードなどがあるんですが、ロングボードに乗ってぽかんと海に浮いているだけでも楽しいんじゃないかと思います。一度、サーフィンの練習に出掛けたことがあるんですが、僕は泳ぎがあまり得意じゃないのと、その日は体調が悪かったので、海上では見学だけにとどめました(笑)。でも、いつかはやりたいですね。老後はサーフィンだなと思っています(笑)。