第39回東京国際映画祭(TIFF)の黒澤明賞の受賞者が呉美保(お・みぽ)監督とモハマド・ラスロフ監督に決定し、発表された。

黒澤明賞は、TIFFが日本が世界に誇る故・黒澤明監督の業績を長く後世に伝え、新たな才能を世に送り出していきたいとの願いから、世界の映画界に貢献した映画人、そして映画界の未来を託していきたい映画人に贈られる。2025年は李相日監督とクロエ・ジャオ監督に贈られたが、2026年は山田洋次監督、李相日監督、芦澤明子、市山尚三東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの4名の選考委員による選考の結果、呉美保監督とモハマド・ラスロフ監督が受賞することとなった。
呉美保監督は大阪芸術大学卒業後、大林宣彦事務所を経てスクリプターとして映画制作に携わり、2006年『酒井家のしあわせ』で長編映画監督デビュー。2014年『そこのみにて光輝く』ではモントリオール世界映画祭最優秀監督賞をはじめ、国内外60もの映画賞を受賞。その後、出産・育児を経て、2024年、9年ぶりの長編映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で本格復帰した。最新作『ふつうの子ども』では、ありのままの子どもたちの生命力を鮮やかにすくい取る演出が、国内外で高く評価されている。
モハマド・ラスロフ監督はイラン出身で、イラン政府による過酷な検閲や禁固判決、製作禁止処分に直面しながらも決して屈することなく、ゲリラ的撮影も駆使しながら独自の映画制作を追求。2020年に第33回東京国際映画祭で上映された『悪は存在せず』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞、2024年の『聖なるイチジクの種』は第77回カンヌ国際映画祭で審査委員特別賞を受賞し、アカデミー賞国際長編映画賞候補にも選出されるなど、世界中のクリエイターに勇気を与え続けている。


【コメント全文】
▼呉美保
初監督作から20年の節目に、この上ない賞を賜り、驚きとともに身に余る思いです。2010年にいただいた新藤兼人賞は、映画を作り続ける大きな支えとなりました。牛歩ではありましたが、図らずも黒澤明賞に辿り着け、なんと幸福な映画人生だろうと喜びを噛みしめています。この受賞は決して私一人のものではありません。これまで出会ったすべてのスタッフ、キャスト、映画館へ足を運んでくださった観客の皆さま、そして山田洋次監督をはじめ、私を見つけてくださった選考委員の皆さまに、深謝申し上げます。最後に、毎日とっ散らかっている私を見放さずにいてくれる息子たちと夫へ、心からのありがとうを。
▼モハマド・ラスロフ
黒澤明賞を授与いただき、大変光栄に存じます。黒澤監督の映画は、人間のあり方や、危機に直面したときに私たちが迫られる倫理的な選択についての深い考察となっています。人間、自然、そして世界に対する独自の視点を持ち、ダイナミックかつ探求心に富んだ映像の語り手であった黒澤監督の作品は、映画の世界において今なお尽きることのないインスピレーションの源であり続けています。
▼選考委員による選考理由
呉美保監督は2006年に『酒井家のしあわせ』で長編映画監督デビューした後、一貫して社会の片隅に生きる人々を善悪で判断せず、多面的に見つめる作品を作ってきました。特に、近作の『きみはいい子』、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』、『ふつうの子ども』では、子供たちをありのままに描く演出が高く評価されました。今後のますますの活躍を期待し、呉美保監督に黒澤明賞を授与します。モハマド・ラスロフ監督は、これまで体制の中で行われる人権の抑圧をテーマとする重厚な作品を作ってきました。特に近作の『悪は存在せず』、『聖なるイチジクの種』は抑圧する側の人間も一人の市民であるというヒューマニズムな観点に立ち、国際的に高い評価を受けました。様々な圧力に屈せずに創作活動を続けてきたことも含め、モハマド・ラスロフ監督に黒澤明賞を授与します。
なお同賞に絡めて、第39回東京国際映画祭では「黒澤明の愛した映画」と題し、『サーカス』(1928)、『姿三四郎 4Kデジタルリマスター版』(1943)、『生きる 4Kデジタルリマスター版』(1952)、『友だちのうちはどこ?』(1987)の4作品が上映される。
【オープニング、センターピース、クロージングの各作品情報はこちら】

【開催期間】
2026年10月26日(月) 〜 11月4日(水)
公式サイト 2026.tiff