サムライ魂とロマンティシズム
そして『Vol.2』になると、スタイルやトーンがまるで変わる。そこにはマカロニ・ウエスタン的哀感が漂い始め、キャラクターらしさを伝えるタランティーノ印の会話も楽しめるようになる。そして、先が読めない。「サニー千葉が『Vol.1』で「復讐は決して直線ではない。それは森であり、森では簡単に道に迷う」と言うけど、『Vol.1』って直線なんだよね。それが『Vol.2』では森になっていく。複雑さと深さを感じさせる人間ドラマになっていくんだ」
興味深いのは、マイケル・マドセン扮するバド。すっかり落ちぶれて、ストリップ劇場の用心棒をしながら荒野のトレーラーで暮らす彼は、そのセリフで「ものすごく複雑な人間味を感じさせる」キャラクターなのだ。その一方、ダリル・ハンナ扮するエル・ドライバーとザ・ブライドの対決は、ひたすら下品でワイルド。タランティーノに『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』という日米合作の怪獣映画を渡されて「こういうイメージだ」と言われたブロンド女優ふたりは、面食らいながらも覚悟を決めたという。
また、『Vol.1』で憧れの日本人スター、サニー千葉に伝説の刀鍛冶・服部半蔵役を当ててご満悦だったタランティーノは、『Vol.2』の回想パートで『少林寺三十六房』のゴードン・リューに、香港の時代ものアクションにつきものの悪僧キャラ、パイメイ役をやらせて大興奮(ゴードンは『Vol.1』にも“クレイジー88”の一員として出演)。ザ・ブライドの修行シーンにショー・ブラザーズ映画風の素早いズームインを使い、わざとピントを外したりしてはしゃいでいる。
そして、ザ・ブライドが旅の最後にたどり着くのは、ビルだ。この役は当初、伝説的女たらしのウォーレン・ビーティが想定されていたが、デイヴィッド・キャラダインに変更。なぜなら彼は、タランティーノにとっては大好きなTVシリーズ『燃えよ!カンフー』のケインだからだ。中国武道を習得して西部をさすらう哲学的な男は、ビルに不思議な説得力をもたらすことに成功した(この役にはキャラダインが『サイレントフルート』で演じたふたつの役も入っている)。彼とザ・ブライドが交わす会話には、サムライ魂とロマンティックな愛が宿っているのだ。「このシーンのビルには、長い間ザ・ブライドに恋してきた俺自身がかなり投影されている」と、タランティーノ。「俺はロマンティックな人間だし、これは“復讐のオデッセイ”であると同時にラブストーリーでもあるんだよ」
タランティーノが自分のミューズ、ウマ・サーマンとクリエイトしたヒロイン、ザ・ブライドの旅を通して、あらゆるジャンル映画の醍醐味を詰め込んだ復讐のオデッセイ。
脚本・監督 クエンティン・タランティーノ
出演 ウマ・サーマン、デイヴィッド・キャラダイン、マイケル・マドセン、ダリル・ハンナ、ルーシー・リュー、千葉真一(サニー千葉)