映画の持つ力が招く驚愕のクライマックス
ここから先は結末に触れるので、まだ観ていないという人はぜひ、観てからここへ戻ってきてほしい。プレミア会場となったショシャナの映画館で、何が起こるのか。文字通り、映画がナチスをぶっ殺す。紙の6倍も可燃性が高いナイトレート・フィルムが燃え上がり、そこにいた全員を焼き尽くすのである。タランティーノは「このクライマックスを思いついたとき、思わず『俺ってテンサイッ!』と叫んだ」という。当然だ。これまでにも彼の映画愛は作品にたっぷり注入されていたが、それをこういう形で武器にし、フィルム・プリントで憎たらしいナチどもを倒すなんて最高だ。
「そう、今回は比喩とかそういうんじゃなくて、直接的かつ明確な形で俺の映画愛をストーリーに反映できたこと、嬉しく思っているよ。実際、俺はすごくフィルム・プリントを愛してる。集めているからね。映画の力そのものがヒットラーを殺して第三帝国を倒すというアイデアには、我ながら惚れ惚れした(笑)。あの美しい映画館に閉じ込められて、ナチスはまるでアウシュヴィッツのユダヤ人みたいな目に遭わされるんだ。『イエス! やったぜー!』って快哉を叫びたくなるだろ。でも一方で、映画館が燃えていること、ショシャナやマルセル、ツォラーもこの作戦の犠牲になったことを思うと複雑な気持ちだ。そんな風に感情が動かされるシーンになったことも気に入っているんだ」
この映画はタランティーノにとって、「ものすごくロマンティックな映画」になった。自分の映画愛をさらけ出したこともそうだが、彼にとってはショシャナとツォラーの関係が、とびきりロマンティックなのだそうだ。
「ショシャナとツォラーのストーリーは悲劇的にロマンティックで、彼らの最期となる映写室のシークエンスはまるで『ロミオとジュリエット』みたいじゃないか? 彼はナチで、ショシャナを愛してる。そして、彼女の計画をダメにして苦しめているんだが、そのことを彼は知らない。すべて良かれと思ってやっているナイスなヤツだ。だけど、彼はナチスドイツを活性化させる戦争の英雄で、彼が崇拝しているヒトラーをショシャナは殺さなければならないんだ。それが戦争なんだよね。時代が違っていれば、ふたりは恋人になれたかもしれない。そこがロマンティックなんだよ!」
ナチス占領下のパリで、ナチスの将校、ランダ大佐に家族を皆殺しにされたユダヤ娘、ショシャナの復讐劇と、英米連合軍の特殊部隊、バスターズの任務とがひとつになって……。タランティーノの大胆なストーリーテリングが衝撃を呼ぶ、戦争映画の新機軸。
脚本・監督 クエンティン・タランティーノ
出演 ブラッド・ピット、クリストフ・ヴァルツ、メラニー・ロラン、ダイアン・クルーガー、ダニエル・ブリュール、ミヒャエル・ファスベンダー