2003年、フランスの大女優イザベル・ユペールはデュラスの意思を引き継ぐかのように、映画の配給権を買い取りこの幻の映画をフランスで甦らせる。2007年、本作の運命は大きく変わった。閉鎖前のハリウッド・フィルム&ビデオ・ラボの書庫を訪れたUCLAフィルム&テレビジョン・アーカイブの修復師が、放置されていたオリジナルのネガ・フィルムを発見し、破壊から救い出したのだ。
2010年には、マーティン・スコセッシ監督が設立した映画保存運営組織ザ・フィルム・ファウンデーションとイタリアのファッションブランドGUCCIの支援を受け、プリントが修復される。この修復版は、ニューヨーク近代美術館で上映され行列が出来るほど大成功を収める。本作の熱烈な支持者であると言うソフィア・コッポラ監督が自ら紹介、観客の中にはマドンナの姿もあったという。同年、ヴェネツィア国際映画祭で再び上映された。2011年には、BFI ロンドン映画祭やロサンゼルスの保存映画祭でも上映される。2012年、フランスの作家ナタリー・レジェが「バーバラ・ローデンのための組曲」を出版、英訳もされローデンの評価はいっそう高まった。
そして2017年、「文化的、歴史的、または審美的に重要」と後世に残す価値がある映画として『スーパーマン』(78)、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)、『タイタニック』(97)などと共に認められ、アメリカ国立フィルム登録簿に永久保存登録される。時間が経つにつれて貴重な作品として認識された本作は、アメリカ映画の公式な歴史にはほとんど登場しない。だが、ニュー・ハリウッド時代の金字塔、アメリカ・インディペンデント映画の代表作として、大西洋との両側でカルト映画として注目される。
【各界著名人 コメント】
■玉城ティナ / 女優
これは1人の女の美しい怠惰な物語ではない。ワンダの表情が本当にここにいていいのかと聞いてくるように頼りなく、優しく、淡々と時間が流れる。必要とされたいという気持ちで行動を起こせる彼女の素直さ、削られたセリフやストーリーから人間の拙い欲求が浮かび上がってくる。私たちはただ、一人の人間として見られたいだけなのだと。
■山崎まどか / コラムニスト
バーバラ・ローデンは名もなき女に「ワンダ」という名前を与え、侘しい人生から生命の輝きを掬い取って、わたしたちにくれた。彼女から手渡されたその小さな光は永遠に消えない。
■岸本佐知子 / 翻訳家
世界のどこにも居場所のない、ひたすら下降していくワンダ。広大な瓦礫世界を一人でとぼとぼ歩いていく彼女は、なんだか生の最小単位みたいで、いじらしくて、強くて、神聖ですらある。
■坂本安美 / アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム主任
ワンダから目が離せない。ボタ山を歩く彼女、カーラーをつけても一向に巻き髪にならず、強盗をしている男から櫛を借りて髪を梳かす彼女、あんなに怖がっていたのにピストルを素早く奪う彼女。そして底なしの深い哀しみを湛えてこちらを見つめるあの眼差しは、ワンダの生きる世界が私たちの世界とひとつづきであることを突きつける。
ペンシルベニア州。ある炭鉱の妻が、夫に離別され、子供も職も失い、有り金もすられる。少ないチャンスをすべて使い果たしたワンダは、薄暗いバーで知り合った傲慢な男といつの間にか犯罪の共犯者として逃避行をつづける。アメリカの底辺社会の片隅に取り残された崖っぷちを彷徨う女性の姿を切実に描き、70年代アメリカ・インディペンデント映画の道筋を開いた奇跡のロードムービー。
監督・脚本:バーバラ・ローデン
出演:バーバラ・ローデン、マイケル・ヒギンズ、ドロシー・シュペネス、ピーター・シュペネス、ジェローム・ティアー
配給:クレプスキュール フィルム
©1970 FOUNDATION FOR FILMMAKERS
2022年7月9日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国公開