コラム 佐々木誠の『映画記者は今日も行く。』第44回
『夜は短し歩けよ乙女』の完成披露試写会舞台挨拶が3月9日、TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われた。 舞台挨拶には、湯浅政明監督、声優キャストの星野源、花澤香菜、神谷浩史、秋山竜次(ロバート)が登壇した。
2016年に放送された、TBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の【津崎平匡】役がまだ記憶に新しいところだが、今度は人気作家・森見登美彦氏によるベストセラー小説をアニメーション映画化した『夜は短し歩けよ乙女』で、主人公の【先輩】の声を務めることとなった星野源。
多忙を極める星野だが、本作出演への経緯について「昨年の10月頃に、湯浅さん(湯浅政明監督)が直筆で書かれた『先輩役をやって頂きたい』という手紙が、台本とともに突然届きました。『マインド・ゲーム』(2004年)という映画を観てから、湯浅さんの作品を追い掛けていたので断れなかったですし、是非やらせて頂きたいですとお願いしました」と明かしていた。
それに対し、湯浅監督は「あまりにも正直な気持ちを書いたので、手紙を送る時は気になっていました。製作サイドでは、(先輩役に)星野さんの名前が挙がるとすごい盛り上がったので、お忙しいと思いましたけど、『星野さんが先輩をやれば面白くなります』って手紙で伝えたんです」と、星野への熱い想いを届けていた。しかし、当の星野はというと「脅迫文みたいでした(笑)」と、その熱すぎる手紙の内容に若干困惑していた様子だった。
“困惑”と言えば、星野は本作での好きなシーンについて「先輩が、古本の神様にアイスクリームを股間に付けられて、そのアイスクリームが落ちて、コーンからクリームがベチョッとなった次のカットが、乙女がラムネを飲むシーンだったので、あの絵コンテを描いた人はすごいスケベだなと思いました(笑)。絶対意図的に描いていると思いますよ。そこにグッときました」と、突然の下ネタ話を披露。【黒髪の乙女】の声を担当した、人気声優の花澤香菜を困惑させていたのだった。
星野の下ネタ好きというのは有名で、自身の冠が付いたラジオ番組『星野源のオールナイトニッポン』でも度々、スケベなトークを繰り広げている。
そして、様々な顔を持っている星野源。
2015年に解散してしまったが、インストゥルメンタルバンド「SAKEROCK」のリーダーを務めていたほか、現在ではソロアーティストとしても大活躍。また、エッセイストやコラムニストという肩書きも持ち、さらには、松尾スズキが主宰する「大人計画」の所属俳優として、演技の方も精力的に行っている。
しかし、そんなマルチな才能を遺憾なく発揮していた矢先、病が星野を襲う。 2012年に「くも膜下出血」と診断され、活動を休止。その後、2度の手術を経て、翌2013年9月26日に無事退院を発表。まさに、地獄からの生還を果たしたのだった。
何の因果か、それから2日後の9月28日には、出演(兼主題歌)映画『地獄でなぜ悪い』(園子温監督)が公開初日を迎えた。
歌手・星野源としても、2014年2月6日に日本武道館にて、復帰ライブを開催することができた。
前述の『逃げるは恥だが役に立つ』では、主演の新垣結衣とともに、恋にダンスに大騒ぎ。日本中の話題をさらい、今や注目の的となった星野だが、体調にはくれぐれも注意して、無理せず、あくまでもマイペースにそのマルチな才能を発揮していってほしいものだ。これは、いちファンとしての意見である。
逃げることは恥ではないのだから。
そんな星野が次に挑むのが、アニメーション映画『夜は短し歩けよ乙女』。 “恋”ではなく、今度は“声”で魅了する。
『逃げるは恥だが役に立つ』 『夜は短し歩けよ乙女』 なぜか、ことわざみたいなタイトルが続く、星野源なのであった。
映画『夜は短し歩けよ乙女』
映画『夜は短し歩けよ乙女』(東宝映像事業部配給)は、黒髪の乙女に思いを寄せる冴えない大学生の物語をユーモラスに描いた、人気作家・森見登美彦による初期のベストセラー小説をアニメーション映画化した作品。