出会った作品と人へのありがたさ
ーーこの作品に出会って良かったなって思うところはありますか?
基本的にこのお仕事は受け身なので、出会っていく作品もご縁だと思うんです。今回こうしてお話いただかないと新しいジャンルへのチャレンジもできない。
プロデューサーさんたちが、私に対して真面目なイメージがあって「だからこそ、今回のような役柄をやってみたらどうなるか見たかった」っておっしゃってくださっていて、それはすごくありがたかったです。
どの作品でも、そこで出会った方々や、いただいた言葉に刺激を受けて自分が少しずつ変わっていく感覚があるのですが、今回もそうです。恵まれた現場で初めての挑戦ができたという点でも、すごくありがたかったです。
ーープロデューサーの方々だけでなく、一般的にも「真面目で、感情をあらわにしたり、叫んだりとかしない」というイメージがありますが、本当の深川さんはどうなんでしょうか?
叫んだりはしないかもしれない。あんまり叫ぶっことってないですよね?(笑)。
「真面目だね」とはよく言われるし、自分でもそうだと思います(笑)。仕事以外で友達に見せている顔や、家族に見せている顔は、また全然違うとは思うのですが、自分で自分のことって以外と分からないので、言われたことは「そういう風に見えてるんだ!」と思って受け止めています。
ーー今回は中部地方をはじめ、いろんな方言がセリフにありました。静岡県出身者の深川さんとしていかがでしたか?
架空の村なので、全国のいろんな方言をミックスして、オリジナルの方言で作られています。でも、私の地元の方言にも「◯◯だに」とか、近い部分があったので、ちょっと懐かしさも感じました。
ーー観ていて「ありがっさま」って方言が怖かったです。
「ありがとう」って何かされたお礼に言う言葉じゃないですか?
今回の映画では、杏奈と輝道の子どもというよりも、自分たちにとっての、村にとっての子どもを産んでくれてありがとう。っていう意味で使われていたと思うんです。
杏奈自身も、あまりにみんながありがたがるから、いいことなのか、悪いことなのか不安になる。そこに対する違和感を「ありがっさま」っていう、その言葉から感じ始める。この映画の中で象徴的になるような方言になっていますよね。
ーークライマックスの深川さんの表情が素敵でした。観客に委ねられるラストシーンだと思いますが、ご自身ではどんな感情で演じられたんですか?
杏奈自身、一瞬どう行動すべきか迷ったところはあったけど、目と目を合わせたときに走馬灯のように今までの思い出が蘇ってきた時間だと思っています。
とはいえ、それを答えにはせずに、観客のみなさんに自由に想像していただけたら嬉しいです。
最初はどちらかというと旦那さんに頼っていたところがある杏奈だけど、自分にとって大切な守るものができて、それを何としても守り抜く一人の女性としての強さが、あのラストシーンで伝わったらいいなと思います。
ーー最後にこれから本作を観る方にメッセージをお願いします。
どちらかが100パーセント悪いということではなくて、見る立場によっては、どちらにも同情するし、どちらもいけないよねって思うところがある映画だと思います。
だから本当に目線を変えることによって結末をどう感じるかが、変わってくると思うんですよね。スカッとする人もいると思うし、村人たちが、かわいそうって感じる方もいると思います。
とはいえ、誰が何を隠しているんだろう?っていうゾクゾクする怖さをエンタメとして楽しめるような作りになっていると思うので、本当に何も考えず、気軽な気持ちで観てほしいです(笑)。
取材・文 / 小倉靖史
撮影 / 曽我美芽
ヘアメイク /吉田真佐美 スタイリング / 山口香穂
田舎暮らしに憧れるイラストレーターの杏奈は、脱サラした夫・輝道とともに都会を離れ、麻宮村に移住する。麻宮村の村民たちは、自治会長の田久保のことを過剰なまでに信奉していた。2人は、村民たちの度を越えたおせっかいに辟易しながらも新天地でのスローライフを満喫する。そんな生活のなかで杏奈は、麻宮村の村民のなかには田久保を畏怖する者たちがいる、と不信感を抱くようになっていく。一方、輝道は田久保の仕事を手伝うことになり、麻宮村の隠された“掟”を知ってしまう。それでも村八分にされないように、家族のため“掟”に身を捧げることに‥‥。
監督:城定秀夫
出演:深川麻衣、若葉竜也、松浦祐也、片岡礼子、中山功太、杉田かおる、田口トモロヲ
配給:ショウゲート
©2024映画「嗤う蟲」製作委員会
2025年1月24日(金) 新宿バルト9 ほか全国ロードショー
公式サイト waraumushi