ギタリスト、そしてノイズやフリージャズを中心とした音楽家として活躍し、連続テレビ小説『あまちゃん』(13年)や映画『俳優 亀岡拓次』(16年)、大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(19年)など数々の映画やドラマの音楽を手掛ける劇伴作家としても活動する大友良英。彼が新たに劇伴を手掛けたのは、『さよなら渓谷』(13年)や『セトウツミ』(16年)などの大森立嗣監督のオリジナル脚本による最新作『タロウのバカ』。本作の楽曲の制作秘話や音楽家としてのこだわり、そしていまも影響を受けている一冊を語った。
モチベーションが上がる大森監督の発想力
――大森監督とは『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10年)、『ぼっちゃん』(13年)、『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(19年)に続いて4作目のタッグとなりますが、今回はどのようにオファーの連絡があったのでしょうか?
大森監督から直接オファーの電話が掛かってきたので、冗談で「また暴力系の映画?」なんて聞いたら「そう」って(笑)。その電話のあと脚本が届いて、ラフの映像が届いてという感じでした。
――監督とはお仕事以外でも交流があるのでしょうか?
いえ、僕はお酒が飲めないので、大森監督に限らず仕事以外での人との交流がほとんどないんです。友達がいないんですよ(笑)。連絡先もオープンにしていないですし、事務所にもレコード会社にも所属していないので、大森監督からはいつも電話でオファーの連絡をいただいています。その時に敬意をもってお話を振ってくれているのが伝わるので、スケジュールさえ合えば、という感じで。僕の場合はほかの劇伴作家とはちょっと違うので、それがわかっている人じゃないと一緒に仕事するのは難しいと思います。
――今回、音楽を担当するにあたり監督とはどんな打ち合わせをされましたか?
大森監督は「このタイミングでこの音を入れて欲しい」といった具体的な指示をされるので、これまで一緒に仕事をした監督の誰よりも細かいのですが(笑)、そのぶんやりとりがすごく楽しいです。ただ今回、「シタールとかどうかな?」と提案された時は、「え!シタール?!」と驚きました(笑)。今回の映画の登場人物たちとインドの民族楽器って、何の関係もないじゃないですか。だけど簡単に意味がわかるようなアイデアではおもしろくないし、大森監督の意外な発想や提案が好きだから、“シタール”と聞いてモチベーションが上がりました。僕には出てこないアイデアですからね。
――資料によると、本作におけるシタールの音は“生と死のはざま”を表現しているそうですが、楽曲はどのように制作していかれたのですか?
まず、プロのシタール奏者を探すところから始めました。監督が最初に参考音源として聴かせてくれたのはいわゆる伝統的なインド音楽のシタールだったんです。ただ、そういうのが弾ける人はちょっとこだわりが強い方もいるので、「こういう映画の音楽には協力できない」とか「暴力シーンに合わせた音楽では弾けない」と言われたらアウトなんです。
――大友さんはギター奏者ですから、ギター以外の楽器を弾ける方を探すことはすごく重要ですよね。
演奏家のキャスティングはすごく重要です。今回はヨシダダイキチさんというロックも古典も弾ける柔軟なシタール奏者を見つけまして、ヨシダさんにシタールの音域やキーが変えられるかどうかといった初歩的なことや「即興だったらどの程度対応できますか?」と細かく確認しながら進めていきました。彼のおかげで曲を完成させることができたと思います。