Sep 01, 2019 interview

大友良英に聞く映画&ドラマの音楽制作の裏側、いまもなお影響を受けている一冊

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映画とドラマの音楽制作の違い

――完成した本作をご覧になってみていかがでしたか?

正直な話、自分が作った音楽がついた時点で客観的に観られる状態ではなくて、「あのシーンの音の最初の音量が…」とか、いろいろと技術面が気になってしまうんです(笑)。だから何年かおかないと客観的に観るのは難しくて。

――ストーリーよりも音に気がいってしまいますよね。

そうなんです。それにストーリー展開もシーンの細かい流れも知っているので、映画ならではのドキドキワクワクを楽しめないんです(笑)。

――(笑)。では音楽がつく前の本作を観てどう思われましたか?

観終わって最初に出た言葉が「キツい…」でした。こんなにメンタルにズッシリとくる映画に音楽をつけるのかと(笑)。それが正直な感想です。

――さまざまな社会問題が描かれていますが、ドキュメンタリーではなくフィクションだからこそエンタメ映画として楽しめるのではないかなと思いました。

ちょっとドキュメンタリーっぽく見えるけど、ああいった映像に音楽がついたことで完全にフィクションの作品になったのではないかなと思います。タロウを演じたYOSHIくんのお芝居を見ていると本当にああいう子なのかなと思えてきますしね。

――エージ役の菅田将暉さん、スギオ役の仲野太賀さんもこれまで見たことのないようなチャレンジングなお芝居をされているように感じたのですが、お2人のお芝居に関してはいかがでしたか?

お2人とも素晴らしかったです。特に菅田さんは、以前から出演作を拝見するたびに「この役者さんいいな」と思っていて、好きだったんです。中でも『dele』(18年)というドラマは音楽もストーリーもすごく良くて、菅田さんをはじめキャストもみなさん良かったので、「このドラマに関われた人は幸せだな」と思っていたんです。なので『タロウのバカ』に菅田さんが出演していると知った時は、直接お会いするわけではないのに嬉しい気持ちになりました(笑)。

――撮影現場には行かれなかったのでしょうか?

大森監督は撮影がほぼ終わってからオファーの連絡をされるので、いつも脚本と仕上がりつつある映像を観ながら音楽を作るという流れなんです。だから現場で役者さんに会うことはまずないですね。

――某インタビューで『いだてん』の菅原小春さんの撮影現場を見学されたとおっしゃっていましたが、見学できる作品の場合はよく現場に行かれるのでしょうか?

『いだてん』の撮影現場にはけっこう足を運んでいます。映画とは違って脚本と映像がどんどんあがってくるので、雑誌や新聞と同じような感覚で曲を作らなければいけないというか。時間があれば撮影現場に行ってヒントを掴むようにしているんです。『いだてん』や『あまちゃん』のような長期クールのドラマは作品と並走しながら作っている感覚なんですけど、映画は完全に分担作業なのでちょっとだけ寂しさを感じることはあります。