憧れの女優は一生のミューズ
──otocotoではみなさんに、影響を受けたりご自身のルーツとなったエンタメ作品や人物をお聞きしています。前田さんは映画好きとして有名ですが、今までに影響を受けた映画や人物をご紹介いただけますか。
若尾文子さんは女性から見ても色気があって、それでいてとってもお茶目で可愛らしい部分もあるので大好きな女優さんです。最初はレンタルDVD屋さんで若尾さんの特集コーナーを見つけて『婚期』(61年)を借りたのがきっかけなんですけど、それ以来ハマってしまって。若尾さん出演作のDVDやブルーレイは結構揃えましたし、断捨離する時も若尾さん出演作のソフトだけは残しています(笑)。
──その中でも最も好きな作品を教えていただけますか。
やはり若尾さんにハマるきっかけとなった『婚期』が一番好きです。テンポが独特で若尾さんの声も可愛いですし、高峰三枝子さん、若尾さん、野添ひとみさん演じる三姉妹の掛け合いがすごく面白くて。昔の映画は録音技術がいまと異なるので、声が少し高く聞こえたりテンポが早くなっていたりするらしいんですけど、それも含めてその時代の味だなと思います。若尾さんは私の一生のミューズで憧れの女優さんです。
──女優デビューして以来、さまざまな作品で幅広い役に挑戦されていますが、どんなことでモチベーションを保ってらっしゃるのでしょうか?
このお仕事は自分で選ぶのではなく選んでいただくものだと思っていて、そんな中で黒沢監督のように何度も呼んでいただけることがモチベーションになっています。黒沢さんの現場はすごく幸せで、おかげさまで自分にとって居心地の良い場所が見つかりましたし、前にお仕事でご一緒した方に「久しぶり」と言えるのは本当に幸せなことだなと。それは黒沢さんの作品に参加させていただいたことでより感じるようになりました。今回、芦澤明子さんという方がカメラマンとして参加してくださっているんですけど、芦澤さんとも4回目だったのですごく嬉しかったです。
──そんな幸せな現場で葉子を演じてみて、何か気付いたことや発見できたことはありますか?
何も知らない場所に行って何かを考える時間もいいなと思いました。やったことのないことに挑戦すると、確実にそれが成長に繋がるんだなと、少し時間が経ってから改めて気付いたり。これからも新しいことに挑戦していきたいです。
──いま挑戦してみたいことは何かありますか?
子どもが生まれたことで、いろんなことに初挑戦させてもらっています。毎日が初挑戦という感じです。なので我が子に感謝していますし、成長させてもらっているなと感じます。きっとその経験が、作品や自分自身に反映されていくのかもしれないですね。これからの自分がどうなっていくのかすごく楽しみです。
──最後に、女性として目標にしていることはありますか?
女性としてというわけではないのですが、“ひょうひょうとした大人”になりたいです。今は一人の人間としていろんなものと闘ってる時期で(笑)、それを乗り超えた後、“ひょうひょうとした大人の女性”になれていたらいいなと。最終目標は、元気で明るいお婆ちゃんです(笑)。
取材・文/奥村百恵
撮影/名児耶 洋
1991年生まれ、千葉県出身。2005年にAKB48の1期生として芸能界デビューし、2012年にグループを卒業。2007年に『あしたの私のつくり方』で映画デビュー。『苦役列車』(12年)でTAMA映画賞最優秀新進女優賞し、同作と『もらとりあむタマ子』(13年)で日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞を2年連続受賞。近年の出演作に『散歩する侵略者』(17年)、『マスカレード・ホテル』(19年)、『町田くんの世界』(19年)など。『葬式の名人』が9月20日に公開。
テレビ番組のリポーターを務める葉子(前田敦子)は巨大な湖に棲む“幻の怪魚”を探すため、番組クルーと共に、かつてシルクロードの中心地として栄えたこの地を訪れた。夢は、歌うこと。その情熱を胸に秘め、目の前の仕事をこなしている。収録を重ねるが、約束通りにはいかない異国でのロケで、いらだちを募らせるスタッフ。ある日の撮影が終わり、ひとり街に出た彼女は、聞こえてきた微かな歌声に誘われ美しい装飾の施された劇場に迷い込む。そして扉の先で、夢と現実が交差する不思議な経験をする。彼女が、旅の果てで出会ったものとは――?
監督・脚本:黒沢清
出演:前田敦子、加瀬亮、染谷将太、柄本時生、アディズ・ラジャボフ
配給:東京テアトル
2019年6月14日(金)公開
©2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO
公式サイト:https://tabisekamovie.com/
1952年に『死の街を脱れて』で映画デビュー。可憐さと気性の激しい性格を併せ持つ女性を演じて瞬く間に人気女優に。世界的巨匠・溝口健二監督の『祇園囃子』(53年)や小津安二郎監督の『浮草』(59年)、市川崑監督の『あなたと私の合言葉 さようなら、今日は』(59年)など日本映画を代表する正統派美人女優として活躍。