Jan 08, 2018 interview

上坂すみれが語る『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』での新たなマジンガーの世界と、世代を超えて受け継がれるメッセージ

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Dr.ヘルの問いかけに、深く考えさせられました

 

──ご覧になられて、印象深かったシーンはどういったところでした?

リサの目線としては、インフィニティの力で世界が刻一刻と終わりに向かう中、甲児に向かい「さやかさんとの時間を大切にしてください」という旨を言うんですけれど、アンドロイドだからあまりにも理路整然とした言い方になってしまうのがもどかしく、涙が出てしまう場面。あの説得シーンは、アンドロイドらしさと人間らしさの挟間の、悲しみと切なさがすごく凝縮された場面で胸に迫ります。あとは、ネタバレになるので詳しく言えませんが、“あったかもしれない世界”での甲児とさやかとリサの姿。短いシーンながら、思わず感動してしまいました。ファンとしては……やはり、Dr.ヘルのカッコよさ。最近あそこまで純粋な悪ってお見掛けしなくなりましたよね。悪に生きて、悪を貫くその姿。そして振り回されるあしゅら男爵と、ブロッケン伯爵……(笑)。今作でも二人の中間管理職の悲しみが出ていてすごく良かったです(笑)。

 

 

 

──Dr.ヘルは、石塚運昇さんの重厚な声もあいまって、これぞ悪役!な存在感でしたね。

もう、素晴らしい。思わず引き込まれてしまうほどの、悪の美徳が全身から溢れていました。甲児と因縁を語り合う場面で、闘いの面白さを語りながら人類に絶望させようと説得するくだりなんか、底知れぬ魅力を感じさせますよね。あまりにも魅力的すぎて、リサがあちらに引きずられたらどうしましょう?と思ったぐらい(笑)。

 

 

──(笑)。この話に関連するようですが、今作でリサを演じられて感じた、作品の軸はなんでしょう?

そうですね……今作はDr.ヘルが問いかける「この世界は、存在するに値するのか?」というテーマが軸になっています。きっとこの場面を観た方は色々と考えると思うんです、この世界はどうしようもなくても、守らなくてはいけないのか?自分が甲児、さやか、リサの立場だったらどう動くのか?と。私自身も、神にも悪魔にもなれるロボットという力を得た時に自分がとるべき行動を、頭と心を使って考えなくてはいけないんだと、演じながら思いました。テレビアニメ版はひたすらマジンガーに乗って、機械獣と戦って破壊する……という勧善懲悪な世界でしたけど、『INFINTIY』はそれぞれが生きる上で悩み、葛藤を抱えていて。それでもその壁を乗り越え、悪は必ず打果たすという、通底する悪は許さないというテーマに加えてご覧になられる方に余白を与えてくれる部分があって、それがすごく大切に描かれているので、きっと楽しかった!だけでなく、様々なことに深く考えさせてくれる作品になったと思います。

 

 

──では、改めて最後に『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』の魅力を語っていただければと。

最新のフルCGで描かれたマジンガーZと機械獣の豪快な戦いぶりに加えて、成長した甲児たちが織り成す繊細なドラマが合わさった素晴らしい作品に仕上がりました。72年当時『マジンガーZ』をご覧になられていた方はもちろん、初めて『マジンガーZ』に触れる方も、きっと最後まで楽しめる作品になっておりますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけますと幸いです。

 

 

 

本を選ぶ時は直感。気がついたら5キロも……。

 

──上坂さんは、様々なカルチャーに造詣が深いことで知られております。最近発見し、感銘を受けた書籍についてここから伺えればと思います。

ちょうど今読んでいるので、完璧にはご紹介できないのですが、『〆切本』という、小説家から漫画家さんといった作家さんの〆切にまつわるエッセイをまとめた本を読んでいる最中です。私は先に『〆切本2』を先に買ってしまったので、後々買い揃えたほどハマってます。森鴎外が夜中に「展示会について書けって言われても、何を書けばいいのか。しかも俺、代筆だし……あっ!もう時計が1時になった」というようなボヤきが、森鴎外の文体で書かれていて(笑)。それぞれの作家のイメージを覆すほどの、〆切に追われてせっぱ詰る姿がユル~ク紹介されているのがツボに入ってしまいました。個人的には北原白秋の編集者へのお詫びの手紙が面白かった。「今週、頭の具合よろしからず。次週に回していただきたく候」と書いた翌週の手紙の内容が「今回も頭の具合よろしからず。次週に回していただきたく候」ですからね(笑)。あんな文豪でも、〆切にも勝てなかったのか……と思うと、心が優しくなれます。

──素晴らしいエピソード満載の本ですね(笑)。

そうなんですよね(笑)。文豪繋がりですと最近出版された『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』は面白かった。中でも紀貫之の話は『土佐日記』調で書かれ、ちゃんと内容が平安時代ナイズドされていて。懐に焼きそば忍ばせていたら「丑の刻、あきらかに腐るなり。これはと馬に食わせる」と、淡々と書いてあるんですよ。食べさせちゃダメ!!って(笑)。成りきりで書かれているのがさらに面白いですね。他ですと、敬愛する電気グルーヴさんの『電気グルーヴのメロン牧場―花嫁は死神』。まだ2冊しか持っていないのですが、電気グルーヴが活動休止中の時でもこの連載だけは続けていて、どれだけの情熱をこの連載に注いでるんだろう!と。それなのに内容は……(笑)。

 

 

──石野卓球、ピエール瀧両者の発言もスゴいですが、一番の極悪人は司会を担当する山崎洋一郎氏(rockin’on/ROCKIN’ON JAPAN編集長)ですよね。

そうなんですよ。あの方が一番、人として何かが壊れているような気がします(笑)。時折あまりの内容に、山崎さんによる電気グルーヴのお二方を媒介にした個人エッセイなのでは?と思うぐらいスゴイ回があるんですよね。また山崎さんがお休みの回、お二人がどこか寂しそうに話しているのも可愛らしくて、お三方の間柄も含めて味わい深い一冊です。

──いつも本を手に取る際には、どういった基準で選ばれているんでしょうか?

……インスピレーションがパッ!と湧いたり、興味があった瞬間には、すでに手に取ってしまうタイプです。この前も少し空き時間ができたので、時間を潰そうと本屋さんに立ち寄ったら、気が付いたら5キロ分も本を購入。ダメだなぁ……と猛省の日々です(苦笑)。

 

取材・文/ますだやすひこ
撮影/中村彰男

 

 

プロフィール

 

上坂すみれ(うえさか・すみれ)

1991年12月19日生まれ。神奈川県出身。9歳より子役として活動をスタート。2012年にアニメ『パパのいうことを聞きなさい!』の小鳥遊空役で本格的な声優デビューを果たす。2016年には第10回声優アワード新人女優賞を受賞するなど、若手実力派声優として人気を不動のものとする。声優業、歌手活動だけでなく、多彩かつディープな趣味を活かしモデル活動、執筆活動などを様々な活動展開。中でも、ロシア/旧ソ連文化への造詣は深く、現在日露両国の文化交流の懸け橋役を担うことも。

 

作品紹介

 

『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』

魔神の如きその力は、神にも悪魔にもなれるー。かつて世界征服を目論む悪の天才科学者Dr.ヘルによって滅亡の危機に瀕した人類。しかし“鉄くろがねの城”と呼ばれたスーパーロボット“マジンガーZ”を操る兜甲児とその仲間の活躍により、平和な時を取り戻していた。そして世紀の戦いから10年―。パイロットを離れ科学者となっていた兜甲児はある日、富士山地中に埋まった超巨大遺跡インフィニティと、そこから現れた謎の生命体リサに遭遇する。そして、時を同じくして謎の復活を遂げたDr.ヘル。彼は無限の可能性を秘めるインフィニティで、かつての野望を完遂しようとしていた。有史以来最大の危機、絶体絶命の状況の中、伝説のパイロットがマジンガーZと共に再び立ち上がる。

原作:永井 豪
監督:志水淳児
声の出演:森久保祥太郎 茅野愛衣上坂すみれ 関 俊彦 小清水亜美 花江夏樹 高木 渉 山口勝平 菊池正美 森田順平 島田 敏 塩屋浩三 田所あずさ 伊藤美来 朴璐美 藤原啓治 石塚運昇 石丸博也 松島みのり/おかずクラブ(オカリナ・ゆいP)/宮迫博之
オープニングテーマ:「マジンガーZ」水木一郎
エンディングテーマ:「The Last Letter」吉川晃司
配給:東映
2018年1月13日(土)全国ロードショー
©永井豪/ダイナミック企画・MZ製作委員会
公式サイト:http://mazinger-z.jp

 

原作本紹介

 

「マジンガーZ」永井豪

魅力的なキャラクター造形やマジンガーZの存在感。加え、ロボットに人が乗りこむスタイルの確立、“ロケット・パンチ”“超合金”といったギミックの発明は、後のロボット作品だけでなく様々な作品に多大なる影響を与えた。まさに現代ポップカルチャーの原点的作品。1972年10月より週刊少年ジャンプにて連載スタート。後にテレビマガジンへと掲載の場を移した。

 

上坂すみれさんおススメ本紹介

 

「〆切本」左右社

古今東西、あらゆる文章/作品に携わる作家たちを苦しめ続ける病……〆切。明治から現在にいたる書き手90名の〆切にまつわるエッセイや手紙、日記、対談などをよりぬき集めた“しめきり症例集”。なんとかして〆切を伸ばそうと苦心する姿に、思わず笑みがこぼれ優しい気持ちになってしまう、あまりにも人間クサさが詰め込まれ一冊。続編「〆切本2」も刊行

「もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら」神田桂一&菊池良/宝島社

「村上春樹著:1973年のカップ焼きそば」……で幕を明け、松尾芭蕉ら歌人に芥川龍之介、三島由紀夫からドストエフスキーにピンチョンといった古今の文豪。小沢健二に星野源、糸井重里、吉田豪、果てはヒカキン……。と、総勢100人の文体で多種多様な“カップ焼きそばの作り方” を書き連ねる一大模倣文学絵巻。

「電気グルーヴのメロン牧場―花嫁は死神」電気グルーヴ/ロッキング・オン社

「ROCKIN’ON JAPAN」誌上にて現在も連載中の、電気グルーヴと編集長・山崎洋一郎氏による究極の悪ふざけをまとめた1冊。伏字が全く追いつかないレベルで繰り出される過剰な下ネタ、他人の悪口に、しょうもないにもほどがある下の事情と大人の情けなさ……この世の全ての陳腐をミキサーにかけてひねり出した、スーパー陳腐の金字塔。