音楽担当 フェデリコ・フシドとの仕事
──音楽担当のフェデリコ・フシドとの仕事についても教えてください。電子音が主体とはいえ、彼の楽曲にもかなりの工夫を感じました。
さっき、脚本を書き始めるときに美術監督を呼んだという話をしたけれど、ふたつ目に要求したことがフェデリコ・フシドを音楽担当にしてほしいということだったんだ。彼とは以前から面識があって、最初に僕が長編用に脚本を書いた『ヒドゥン・フェイス』も彼が音楽を書いていてね。彼とは同じクリエイター同士、コミュニケーションがすごくスムーズに運ぶんだ。最初に彼がタイトル・バック用に書いてきた音楽を聴いたとき、ちょっと違うんじゃないかと感じたんだけど、そういうことも率直に伝えられる仲なんだ。何回でもやり直してもらえるという関係性があればこそ、低予算でも耐えられたところがあったかな。もっとも、ほとんどの場合、フェデリコが書いてくれたものは最初から思うとおりの音楽だったんだけどね。本当に僕がこうあってほしいと思っていた音楽ばかりだった。
──映画音楽も時間をかければ、効率のいいものが得られますよね。
そう。僕は視覚的な観点から作品を作るけれど、作曲家は音楽の観点から映画を表してくれる。今回は全編にわたって音楽が流れるだろう? 音楽ひとつで全然違った作品になってしまう。僕の世界観と彼の世界観はとてもいいマッチングをしたと思っているよ。
──映画音楽には関心がありますか。
もちろん。あなたはどんな作曲家が好きなの?
──ジェリー・ゴールドスミスとか。彼は作曲家としても人間としても素晴らしかった。
彼を知っていたの? うらやましいな。僕も大ファンなんだ。でも、自分に好きな作曲家がいるからといって、それを自分の映画の作曲家に押しつけることはしないよ。僕は作曲家に敬意を持っている。できるだけ自由に書いてほしいし、その方がよりよい結果が得られるはずだからね。
アテム・クライチェ監督の愛読書
──あなたの愛読書を教えてもらえますか。
スペインでジャーナリズムを学んだ後、映画の勉強をするため、ハバナに4年ほど滞在したんだけど、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』(1967年発表)は好んで何度も読み返した。彼の作品は物語として好きだな。映画化するという視点からではなく。彼についてはよく「マジック・リアリズム」が叫ばれているけれど、カリブに実際に住んでみると魔術的なことなんてなくて、ただその土地のリアリズムがあるだけだった。まさにハバナはガルシア=マルケスの世界だったんだ。ガルシア=マルケスでは『族長の秋』(1975年発表)や『コレラの時代の愛』(1985年発表)も好きだよ。でも、『百年の孤独』はそれらを包括しているよね。
──なぜあなたがジャンルを逸脱していく映画を撮るのか、今の答えでなんとなくわかったような気がします。やっぱり、どこかでリアリストなのではないですか。
そうなのかもしれない。確かに現実的な人間なんだろうな。幻想的な設定で映画を始めても現実的な解決を求めてしまうからね。読者としてシュールなガルシア=マルケスは好きなんだけれど、映画監督としてはずっと精霊が話しかけたり、突然花が空から舞ってきたりするような映画は絶対に作れない。そういうシーンがあったとしたら、きっと飛行機で花びらをまいている描写を加えるだろうね(笑)!
取材・文 / 賀来タクト
撮影 / 星野洋介
アテム・クライチェ
レバノン系のサモラ出身の監督・脚本家。ヴァラエティ誌で2012年に「注目すべき若手スペイン映画製作者」の一人に選ばれている。アテムはサラマンカのUPSAでジャーナリズムを学び、その後キューバのEICTVで監督と脚本コースを学んだ。本作を監督する前に、『ヒドゥン・フェイス』(11)、『ゾンビ・リミット』(13)の脚本を手がける。彼は6本の短編映画を監督/脚本し、多くの国際映画祭から注目を集めた。そのうち最も有名なものは2009年のゴヤ賞にノミネートされた‘Machu Picchu’と2010年マラガ国際映画祭特別審査員賞受賞したGenio y Figura’である。
『スターシップ9』
エレナはまだ見ぬ未知の星を目指して、一人恒星間飛行を続けていた。一緒に飛び立った両親は既にいない。近未来、過度の公害に汚染された地球には未来はなく、人類は新しい星への移住を必要としていた。ある日、スペースシップの給気系統が故障し、エレナは近隣のスペースシップに救援信号を送る。その呼びかけに応えて姿を現したのが、エンジニアの青年アレックスだった。一目見て、互いに恋に陥る二人。しかし、エレナはこの飛行に隠された秘密を知らなかった。それは、人類の未来を賭けた高度な実験だった。二人はなぜ出会ったのか―?!
監督・脚本:アテム・クライチェ
プロデューサー:クリスチャン・クンティ、ミゲル・メネンデス・デ・スビリャガ
撮影:パウ・エステヴェ
編集:アントニオ・フルトス
美術:イニーゴ・ナヴァロ
音楽:フェデリコ・フシド
出演:クララ・ラゴ、アレックス・ゴンザレス、ベレン・エルダ、アンドレス・パラ
配給:熱帯美術館
2017年8月5日(土)より全国順次ロードショー
(C)2016 Mono Films, S.L./ Cactus Flower, S.L. / Movistar +/ Órbita 9 Films, A.I.E.
公式サイト:http://starship9.jp/