Oct 08, 2019 interview

是枝裕和が明かす『真実』舞台裏と印象に残るドヌーヴからの言葉、母と観た思い出の映画

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『万引き家族』(18年)がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督。フランスの人気女優ジュリエット・ビノシュと長年にわたって企画を温めていた、日本とフランスとの合作映画『真実』の劇場公開がいよいよ始まる。主演にフランスの大女優カトリーヌ・ドヌーヴを迎えた話題作だ。フランスで撮影された作品ながら、是枝監督らしく“家族”の在り方が浮き彫りとなり、ドヌーヴの魅力を引き出した味わい深いドラマとなっている。「ドヌーヴさんには振り回されっぱなしだった」と笑う是枝監督がその舞台裏を語った。

もともとは舞台用に考えていたストーリー

――大女優の母と女優になれなかった娘という設定は、いつごろから考えていたものですか?

キャリアの晩年を迎えた大女優の話は、2003年くらいから書き始めたものがありました。その時は映画ではなく、舞台用に書いていたんです。レイモンド・カーヴァーの短編小説『大聖堂』を舞台化しているという設定で、千秋楽なのに、役がまだつかめずにイライラしている大女優を主人公にした楽屋ものでした。それが今回の映画のベースになっています。

――その大女優役にカトリーヌ・ドヌーヴを考えたわけですね。

周囲を蹴落として、自分だけが生き残った孤独な女優という設定だったんですが、ドヌーヴさんに演じてもらったキャラクターと近いものがありました。その後、ジュリエット・ビノシュさんと「一緒に何かやりましょう」と話をするようになり、どうしようかと悩んでいた時に、「あの大女優の娘役をビノシュが演じるのはどうだろう」と思いついたんです。それが2015年ごろ。いまの日本にはもうその国の映画史を背負えるような大文字の“女優”と呼べる人はちょっと思い浮かばないけど、フランスにはカトリーヌ・ドヌーヴという存在がいる。彼女なら、そのままいけるんじゃないかと思ったんです。

――ドヌーヴありきの企画だったんですね。是枝作品は俳優のイメージを想定しながら書いた脚本が特徴的ですが、今回も当て書きなんでしょうか?

2015年の時点で、すでにドヌーヴ、ビノシュ、ビノシュの夫役にイーサン・ホークの3人をイメージして脚本を書いていました。「ドヌーヴは大変だよ」と言われていたので、彼女が出演をOKしてくれるかどうかわかりませんでしたが、ひとまず彼女のイメージで書いてみたんです。

脚本を読まずに現れた大女優

――その脚本を読んで、ドヌーヴは出演を快諾?

いえ、最初にお会いする際にロングプロットを事前にお渡ししていたんですが、ドヌーヴさんはまったく読まずに現れたんです(苦笑)。「で、あなたあれ観たの?」「あのお店は行った?」と世間話に花を咲かせて、別れ際になって「あなたとはうまくやれそうだわ」と言ってくれたんです。決して、やる気がなかったわけじゃなかった(笑)。

――大女優の貫禄を感じさせる初対面だったんですね。プロットよりも、監督に直接会った時のインスピレーションを重視していたんでしょうか。

たぶん、そこまで考えていなかったと思います(笑)。ただ、クランクアップのあとに言われたドヌーヴさんの言葉はすごく印象に残っています。「あなたは私の演じている姿しか観たことがないから。あなたが私のことをわかっている以上に、私はあなたの作品を何本も観て、あなたのことを理解していた」と。

―― 是枝作品をドヌーヴは観てくれていた。うれしいですね。

僕が監督した『誰も知らない』(04年)や『歩いても 歩いても』(08年)などはフランスでも公開されており、ドヌーヴさんは観てくれていたんです。「やりましょう」という意思表示だと受け取ることにしました。でも、撮影が始まってからもドヌーヴさんには振り回されっぱなしでしたね(笑)。