十二人の俳優たちによるバランスの良い“セッション”
──これだけ人数が多いといろいろなタイプの役者がいますし、さまざまなリアクションが考えられますけど、どのように考えて演じていたのでしょうか?
北村 僕はセッション的に考えていました。お芝居って結局、相手の反応ありきですし。監督から課せられた役の“宿題”を現場に持ってきたものを使って表現しあうのが、おのおのの楽器みたいなものだと思うので、それがセッションっぽいというか。12人が集まってみんなが自分がしたいだけの芝居をしたら違うものになってしまうと思いますが、みんなが受け入れられるし出せるしみたいなタイプだったのかなぁ。
高杉 誰か一人が突出しようみたいな感じでもなかったし、会話劇だからこそみんながバランスを見ながらやっていたのが良かったんじゃないかなと思います。そうしないと崩れちゃってたと思います。
──舞台劇を見ているような感じでした。
高杉 そうですね。だからこそ現場でも相手のお芝居でこうなったとか、はたから見ていてありそうだなと思っていました。共演者も素敵な方たちばかりだったので。
北村 真宙くん、俯瞰で見てる役だからね。渦中にいたのは僕とかの他のメンバーだったりするので、余計そういうふうに見てたのかもね。
高杉 そうだね。だから僕はその分、他の人が役としてあんな表情してるんだとか観察することができてたと思う。
──完成作をご覧になってどう思われましたか?
北村 最初、展開が速すぎて、一瞬、うわうわ、ついていけない! と思ったんですけど、ただ、中盤から丁寧に伏線を回収していくから見応えがすごかったです。エンディングまでも丁寧に作ってるから、すごく不思議なテンポの映画だなって思いました。すごく面白かったし音楽の使い方も良かったです。
高杉 台本を読んだ時、もっと暗い映画になると思ったんですよ。もちろん題材のこともあるし、ある種の暗さっていうのはあると思うんですけど。でもキャラクターの濃さと会話のテンポ、あと音楽でその暗さが観やすくマイルドになっている気がして。展開は速いけど、回収してくれるところは大事にしてくれるので、ちょっとしたアトラクションに乗っているような感覚になりました。そこがエンターテインメントとして成立してるポイントなんだろうなと思いました。そこは現場では気付けなかった点です。きっと編集のテンポとかでそういうふうに見せてくれているんだなと思います。
北村 確かに、編集のテンポ次第でどんな作品にもなった気がするよね。いくらでもメッセージを込めようと思えばできるし。“観ていて楽しい”という映画本来のエンタメにちゃんと持っていっているので、映画館で観てほしい作品だなと思いました。
劇場で何度も観た音楽映画、話題作にも登場した伝説的コミック
──ありがとうございました。では最後に、「otoCoto」では皆さんに影響を受けたエンターテインメント作品を挙げていただいています。以前ご登場いただいた際、北村さんは小説「永い言い訳」「火花」、サカナクションのアルバム『魚図鑑』のブックレットを、高杉さんは漫画「ピアノの森」「ボールルームへようこそ」をご紹介いただきました。これ以外で、お好きな作品があれば教えてください。
高杉 最近の作品ですけど、『シング・ストリート 未来へのうた』という映画が大好きです。以前もotoCotoさんで挙げた「ボールルームへようこそ」にも通じるものがあるかもしれないんですけど、気弱な男の子が成長する姿や、不完全だけど勇気を持って未来へ向かっていく感じに勇気づけられるんです。楽曲も大好きで、映画館でも何度も観ました。こんなふうに映画館で何度も観たのは『シング・ストリート』が初めてでしたね。
北村 僕は「AKIRA」がすごく好きです。2020年の東京オリンピックがもうすぐですけど(笑)。ああいうサイバーパンク系の作品が好きで、「スチームボーイ」とか「攻殻機動隊」とかありますけど、その中でも「AKIRA」はファッション的に見てもかっこいい。『レディ・プレイヤー1』を観た時に、「AKIRA」のバイクが出てきてめっちゃ興奮したくらい、衝撃的でした。結構、何度も観てますね。
取材・文/熊谷真由子
撮影/中村彰男
北村匠海(きたむら・たくみ)
1997年生まれ、東京都出身。『DIVE!!』(08年)で映画初出演、2013年にDISH//のボーカル&ギターとしてメジャーデビューを果たす。初主演作『君の膵臓をたべたい』(17年)で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。他の主な出演作に「仰げば尊し」(16年)、『恋と嘘』『勝手にふるえてろ』(17年)、「隣の家族は青く見える」『OVER DRIVE』『春待つ僕ら』(18年)など。放送中のドラマ「グッドワイフ」に出演中。映画の待機作に主演作『君は月夜に光り輝く』(3月15日公開)がある。
高杉真宙(たかすぎ・まひろ)
1996年生まれ、福岡県出身。2010年、『半次郎』で映画デビュー。2018年は『世界でいちばん長い写真』『虹色デイズ』『ギャングース』、劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』の4本の主演映画が公開された他、『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』、ドラマ「賭ケグルイ」「モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―」に出演。2019年はドラマ「賭ケグルイ season 2」(春放送)、『映画 賭ケグルイ』(5月公開)、主演作『笑顔の向こうに』(2月15日公開)が待機している。
『十二人の死にたい子どもたち』
ある日、12人の未成年たちが安楽死を求め廃病院の密室に集まった。「みんなで死ねば、怖くないから」と。ところが彼らはそこで13人目のまだ生あたたかい死体に遭遇し、突然の出来事に安楽死の計画は阻まれてしまう。あちこちに残る不自然な犯行の痕跡や次々起こる奇妙な出来事に、「12人の中に殺人鬼が?」と互いを疑い始める。死体の謎と犯人をめぐって疑心暗鬼の中ウソとダマしあいが交錯。12人の死にたい理由がそれぞれ明かされていき、いつ誰が殺人鬼と化すかもわからない中でひとつひとつ状況を推理していく彼ら。果たしてみんなで安楽死できるのか、それとも怯えながら殺されるのか。そして密室サスペンスの謎は解けるのか――。
原作:冲方丁「十二人の死にたい子どもたち」(文春文庫刊)
監督:堤幸彦
脚本:倉持裕
出演:杉咲花 新田真剣佑 北村匠海 高杉真宙 黒島結菜/橋本環奈
吉川愛 萩原利久 渕野右登 坂東龍汰 古川琴音、竹内愛紗
配給:ワーナー・ブラザース映画
2019年1月25日公開
©2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会
公式サイト:http://shinitai12.jp
「十二人の死にたい子どもたち」冲方丁/文春文庫刊
「マルドゥック・スクランブル」や「天地明察」などで知られる冲方丁が、デビュー20年目にして初めて書いた現代長編ミステリー。集団安楽死をするために集結した性格も価値観も環境も違う12人の未成年らが、13人目の死体を発見したことで疑心暗鬼のなか謎を解きつつ嘘と騙し合いが交錯する物語となっている。
「AKIRA」大友克洋/KCデラックス
大友克洋による伝説的コミックで、漫画史に残る傑作のひとつ。近未来の巨大都市の荒廃、崩壊を描いた本作は、今も国内外の様々なカルチャーに影響を与えており、昨年公開のヒット作『レディ・プレイヤー1』では金田バイクが登場して話題を集めた。ハリウッドで実写映画化プロジェクトが進行中と言われている。
『シング・ストリート 未来へのうた』(16年)
『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』で高い評価を得たジョン・カーニー監督による音楽映画。80年代の不況下のダブリンを舞台に、街で見かけて一目惚れした女の子を振り向かせるためバンドを結成した少年の成長を、当時のカルチャーとデュラン・デュランなどの数々のヒット曲と共に描く。