Sep 05, 2017 interview

是枝監督が挑んだ心理サスペンス『三度目の殺人』、かつてない法廷劇を生み出した斬新な創作術とは!?

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是枝監督を本好きにさせた存在とは?

 

──なりたい自分になれなかった大人たちを描いた前作「海よりもまだ深く」(16年)のインタビューでは、「作家になりたかった」と是枝監督は答えていました。作家になりたいと思っていた頃の読書体験について教えてください。

高校生のときなので大したものではありませんでしたが、作家になりたかった時期はありましたね。もともと子どもの頃から本好きで、「十五少年漂流記」や「八十日間世界一周」などを読んでいました。ますます読書好きになったきっかけは、小学校の頃の図書室の先生ですね。若くてきれいな先生がいて、好きだったんです(笑)。記憶が曖昧なんですが、小学校5〜6年の頃ですね。その先生に会うために図書室に通っていました。意外と単純なんです(笑)。「是枝くん、これ読んだ?」と尋ねられて、それで本を借りて読んで、感想を伝えに行くということをやっていた記憶があります。そのとき勧められて、壷井栄の「母のない子と子のない母と」や下村湖人の「次郎物語」を読みました。中学の頃は福永武彦の全集を持っている読書家の同級生がいて、彼からの影響も大きかった。もう一人、加賀乙彦が好きな友達もいて、僕は「山月記」の中島敦が好きでしたね。志賀直哉の「城崎にて」「小僧の神様」も好きでしたし、ヘルマン・ヘッセやO・ヘンリーなども読むようになり、多分「新潮文庫の100冊」は読破したんじゃないかな。中学・高校の頃はそんな感じでした。

──ノンフィクション系に触れるようになったのは大学に入ってからですか?

そうです。大学に入って、本多勝一、佐木隆三などを読むようになりました。沢木耕太郎の「テロルの決算」を読んだのも大学に入ってすぐ。沢木さんにハマっていた時期は長かったですね。あとは宮本輝の「泥の河」「螢川」「星々の悲しみ」「青が散る」……。

──そういった読書体験が是枝監督の礎になっているわけですね。

多分、そうだと思います。それと僕が大学に入った頃、シナリオ文学というジャンルが注目されるようになり、向田邦子、山田太一、市川森一のシナリオ集をすごく読むようになりました。高校の頃は作家になりたいと思っていたんですが、大学の頃はシナリオライターを目指すようになっていました。「倉本聰コレクション」全30巻が刊行され始め、それの第1巻は、僕が中学の頃に大好きだったテレビドラマ「前略おふくろ様」だったんです。毎月一冊ずつ大学の生協で買って読みました。その頃は掛け持ちでバイトをやりました。ビルの夜警をしながら、空いた時間に宿直室で福武書店の赤ペン先生をやっていたんです(笑)。バイト代はシナリオ集をそろえるために使っていました。大学時代はそんなふうにして過ごしていましたね(笑)。

 

取材・文 / 長野辰次
撮影 / 中村彰男

 

 

プロフィール

 

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是枝裕和(これえだ・ひろかず)

1962年生まれ、東京都出身。大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。ドキュメンタリー番組『しかし…福祉切り捨ての時代に』『もう一つの教育 伊那小学校春組の記録』(ともに91年、フジテレビ系)のディレクターとして注目を集める。宮本輝原作の『幻の光』(95年)で映画監督デビュー。同作はヴェネチア映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。『誰も知らない』(04年)はカンヌ映画祭で柳楽優弥に最優秀男優賞をもたらした。『そして父になる』(13年)はカンヌ映画祭審査員賞を受賞。2014年に独立し、制作者集団「分福」を立ち上げた。その他の主な監督作に『歩いても 歩いても』(08年)、『空気人形』(09年)、『海街Diary』(15年)など。

 

作品情報

 

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映画『三度目の殺人』

実在の事件を題材にした『誰も知らない』(04年)や『そして父になる』(13年)といった辛口ホームドラマを撮ることで、是枝裕和監督は社会を構成するいちばん小さな単位である“家庭”を見つめてきた。前作『海よりもまだ深く』(16年)では団地で育った自身の家庭像を振り返った是枝監督だが、新作『三度目の殺人』は初めての挑戦となる法廷サスペンス。社会という大きなシステムを維持するために重要な存在である“司法”の仕組みを解き明かしていく。家庭が父親・母親・子どもといった要素で構成されているように、司法も弁護士・検察官・裁判官という立場の異なる人々が時に対立し、時に妥協しながらシステムを動かしていることが分かる。ドキュメンタリー出身の是枝監督ならではの取材力が活かされたリアルな法廷劇だ。そして、その裁判で裁かれる被告を演じるのは、黒沢清監督のホラーファンタジー『CURE』(97年)などに主演してきた役所広司。『CURE』の催眠術士と『グリーンマイル』(99年)の死刑囚コーフィーを合わせたようなミステリアスな役となっている。役所演じる被告・三隅にどんな判決が下されるのか、まったく予想がつかない。それまでのノウハウが三隅相手では通じないことを知った、エリート弁護士・重盛(福山雅治)はこの難事件にどう対処するのか? 迷いながらも新ジャンルに挑む是枝監督と真実に向き合おうとする重盛との姿が重なって映る。

映画『三度目の殺人』
監督・脚本・編集:是枝裕和 
音楽:ルドヴィコ・エイナウディ 
撮影:瀧本幹也 
美術監督:種田陽平 
出演:福山雅治、広瀬すず、満島真之介、市川実日子、松岡依都美、橋本功、斉藤由貴、吉田鋼太郎、役所広司
配給:東宝 ギャガ 
2017年9月9日(土)全国ロードショー
(c)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ
公式サイト:http://gaga.ne.jp/sandome/

 

 

 

是枝監督おススメ本

 

「星々の悲しみ」宮本輝/文春文庫

1978年に『泥の河』で小説家デビューを飾った宮本輝が、1981年に発表した初期短編集。予備校に通わず、図書館でロシア文学を読みふける浪人生が、生と死の深遠さに触れることになる表題作をはじめ、当時34歳だった宮本輝の初々しくも端正な文章が心に沁みる名作ぞろいだ。宮本輝ビギナーにも、お勧めの一冊。まだ一度も映像化されていないので、宮本文学を読み親しんできた是枝監督たちの世代にぜひドラマ化してほしい。