Sep 05, 2017 interview

是枝監督が挑んだ心理サスペンス『三度目の殺人』、かつてない法廷劇を生み出した斬新な創作術とは!?

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これまでに『誰も知らない』(04年)、『歩いても 歩いても』(08年)、『そして父になる』(13年)などの辛口ホームドラマで国際的な評価を得てきた是枝裕和監督だが、最新作『三度目の殺人』では法廷サスペンスという新ジャンルに挑戦した。「裁判に真実は必要ない」と言い切るエリート弁護士の重盛(福山雅治)は殺人事件の容疑者・三隅(役所広司)や三隅と交流のあった被害者の娘・咲江(広瀬すず)と出会うことで、迷宮世界へと迷い込んでしまう。かつてないリアルかつスリリングな法廷劇はどのようにして生まれたのか。その秘密を、是枝監督自身が紐解いてみせた。

 

──是枝監督はこれまで数々のホームドラマを手掛けてきたわけですが、司法問題については以前から映画化を考えていたんでしょうか?

いや、そうでもなかったんです。直接的なきっかけは、「そして父になる」に法律監修で入ってくれた弁護士さんがいて、今回の福山さんのモデルにもちょっとなっている方なんですが、その弁護士さんとの会話の中で「法廷って、実は真実を明らかにする場所ではありませんからね。僕らにも(何が真実かは)分かりませんから」という発言があったんです。「じゃあ、法廷は何をする場所ですか?」と尋ねると、「利害調整ですね」という非常に現実的な言葉が返ってきたんです。面白いなと思う反面、怖さも感じ、また誠実でもあるなと思いました。法廷で真実が分かるという考えのほうが傲慢ではないかと。じゃあ、法廷は利害調整の場だと思っていた弁護士が、真実を知りたいと思うような話を書いてみようと思いついたのが本作の始まりです。今から2年前ですね。

 

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──弁護士の言葉から生まれた企画だったんですね。劇中で語られる「訴訟経済」という言葉がすごく印象的です。実際に使われている言葉ですか。

ヒヤリングの中で出てきた言葉ですね。弁護士同士の会話で使われていました。司法の世界も経済効率で動いているわけです。例えば、裁判官は1年間にどれだけの数の訴訟をこなしたかで、裁判所内での評価が決まってきます。とても明快な世界なんです。

──裁判所は白黒をつける場所、というのは我々一般人の思い込みに過ぎない?

もちろん、僕も以前はそういうふうに思い込んでいました。でも、ある意味、裁判所は白黒をつける場所であることに間違いはないんです。本来なら白でも黒でもないものでも、白黒つけてしまうわけです。つけないと前に進めませんから。

 

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7人の弁護士たちとの脚本づくり

 

──「海街diary」(15年)では姉妹間の微妙な心理など詳細に調べた是枝監督ですが、今回もかなり入念にリサーチされたんじゃないでしょうか。

今回は弁護士のみなさんと一緒に脚本をつくったようなものですね。先ほど話した弁護士さんに協力してもらい、その方の伝手で7人の弁護士がチームに入ってくれたんです。元検事も含めて7人の弁護士たちが、殺人犯、弁護士、検察、裁判官に分かれて、接見室で犯人に弁護士が名刺を渡すところから始まり、起訴状も書いてもらい、模擬接見や模擬裁判を重ね、その様子を録画してから文字に起こして、脚本づくりをしていったんです。帰りのタクシーの中でどんな会話をするのかも再現してもらいました。

 

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──現役の弁護士たちに協力してもらうことで、是枝監督ひとりでは思い浮かばなかったリアルなストーリーが生まれたわけですね。

そうです、僕ひとりでは司法用語もまともに出てこなかったでしょうし、思考プロセスも違ったと思います。模擬裁判中に「ここでもし、犯行を否認したらどうなります?」と尋ねたら、「あぁ、怒られますね」と言われました。「誰に怒られるんですか?」と聞くと、「裁判長に怒られます」と。法廷では分かりませんが、法廷の裏に呼び出されて怒られるそうです(笑)。「じゃあ、呼び出されるような展開を考えてもらえますか」とお願いして、劇中の重盛たちが叱られるシーンが生まれたんです。だから、今回の脚本は僕が書いたというよりは、7人の弁護士のみなさんが考えてくれたようなものですね。

──観客もそうですが、是枝監督自身、どんな展開が待っているのか分からないスリリングな脚本づくりだったようですね。

はい、スリリングな体験でした(笑)。これまでの映画づくりとは、ずいぶん異なるやり方で進んでいきましたね。

 

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──エンドロールに「協力:東海テレビ報道部」とありました。ローカル局ながら、東海テレビは司法関係の硬派なドキュメンタリー番組を数多く製作していることで知られています。東海テレビのドキュメンタリーから触発された部分もある?

かなりありますね。東海テレビの報道部でドキュメンタリー番組をつくっている阿武野勝彦プロデューサーや斎藤潤一郎ディレクターたちとは10年以上前から付き合いがあり、僕が名古屋へキャンペーンに行くときなどは、一緒に食事したり、スタジオに呼んでもらったりしていました。今回は裁判所の日常を追った「裁判官のお弁当」(07年)など東海テレビ製作のドキュメンタリー作品を、スタッフやキャストと見直したりもしています。劇中で、法廷前の立ちレポしているのは、東海テレビのスタッフのみなさんなんですよ(笑)。

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