Aug 22, 2019 interview

デクスター・フレッチャー監督が『ロケットマン』に込めた“サークル・オブ・ライフ”というテーマ

A A
SHARE

影響を受けたミュージカル映画

―― 子役時代に『ダウンタウン物語』(76年)に出演して以来、あなたのキャリアにはミュージカル作品が目立ちます。今回の演出で参考にした、あなたの好きな作品はありますか?

僕の人生でも、そして今回の映画でも、最も影響を受けているのが『オール・ザット・ジャズ』(79年)じゃないかな。エルトン・ジョンと、彼の夫であるデヴィッド・ファーニッシュも、同作を参照してほしいと最初から言っていたんだ。主人公の前に死の天使が現れて、自分の人生がどこで間違っていたのかアドバイスを与え、考え直させる『オール・ザット・ジャズ』は、どこか『ロケットマン』のテーマに近い。エルトンは一見、派手な人生を送ってきたようで、じつは深い孤独も抱えていた。そういったストーリー展開や、映画全体の構成という点で、つねに『オール・ザット・ジャズ』を意識していたよ。

――ほかにはどんな作品を意識しましたか。

曲の歌詞とストーリーが深い部分で繋がっている点では『キャバレー』(72年)も参考になった。そのほか『コーラスライン』(85年)なんかも今回の演出のために何度も観直したね。あと、ベット・ミドラーの『ローズ』(79年)は大傑作だ。あの映画で彼女は絶対にオスカーを獲るべきだったよ(笑)! ロックスターが成功し、その裏の代償など、まさに“スター誕生”的な『ローズ』のムードを取り入れたかったのさ。

――往年の作品から、最近の『グレイテスト・ショーマン』(17年)まで、正統派ミュージカルを思わせる派手な演出もありますが…。

もちろん『雨に唄えば』(52年)や『巴里のアメリカ人』(51年)のような、きらびやかでハッピーなミュージカルも観返したよ。でも基本的に、ああいう映画はつまらない(笑)。今回は“人生はハードだ”と思わせる部分をミュージカルで描くことに魅力を感じたのさ。実際にエルトンの人生が苦難の連続だったわけだからね。昔はいまと違って、自宅で生まれ、育って、死んでいく人が多かった。自分の人格形成が、どんな環境によって作られたのか。そうした“サークル・オブ・ライフ”を、身をもって実感できた時代があり、それがいまは薄れてきている。そんなテーマもミュージカルの演出に込めているよ。