Mar 01, 2018 interview

いくえみ綾に聞く、原作者から見た映画『プリンシパル』の魅力と影響を受けた漫画家

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弦は「描いていて本当に楽しかった」――“いくえみ男子”人気の秘訣

 

──さて、「otoCoto」では、大切にしている本やマンガを皆さんにお伺いしています。いくえみ先生の愛読書やマンガを教えていただけますか?

たくさんあるのですが、中でも今市子先生の「百鬼夜行抄」が大好きです。自分では絶対に描けない世界観なので、すごく憧れるんですよね。いつか、アニメ化して欲しいと思っている作品です。

──その“自分では絶対に書けない世界観”を描いてみようと思った事は…?

ないですね。だって、モノマネになっちゃうと思うんです(苦笑)。

──得意な分野と、好きな分野は違うんですね。

はい。私は男の子のキャラクターが上手く描けると、物語もどんどん進んでいくので、男の子が主人公のお話を描いている時が一番楽しいんです。「プリンシパル」で言えば、弦のような存在ですね。彼は描いていて本当に楽しかったです。

 

©いくえみ綾/集英社

 

──これまでに発表した作品の中で、特に思い入れのある男の子はどのキャラクターでしょうか?

…実は、描いたそばからすぐに忘れちゃうんですよ(笑)。

──ええっ!そうなんですか?!

はい(笑)。でも基本的に、私自身、男の子が主人公の読み切り作品が大好きなんです。短いページ数でまとまったお話の中で、良いキャラクターが描けるとすごく充実感が生まれるんです。その中でも、「おうじさまのゆくえ」「ラブレター」(共に「いくえみ綾読みきり傑作選 1」に収録)は、かなり気に入っています。

──いくえみ先生自身が楽しみながら描いているからこそ、“いくえみ男子”と呼ばれ、愛されているんですね。先生が描いている男の子たちは、時代によって変わっていくものなのでしょうか。

私の中に流行があまりないので、普遍的に好きなタイプ、描きやすいタイプになっているように思います。でも、「いつもこのタイプだよね」と思われるのは嫌なので、いろんなタイプの男の子を描いていきたいですね。

 

太宰治とくらもちふさこから受けた影響、そこから見出したオリジナリティ

 

──その男の子たちの研究は、人間観察から始まるのでしょうか。

意図的に人間観察をすることはないですが、ふと見かけた人のことを「こういう人なんだろうな」と想像することはありますね。そういえば、若い頃は太宰治が大好きで、読み切りの作品にはその影響が色濃く出ていたと思います。

──太宰作品の陰や闇のような…?

そうですね。あとは、「モノローグが似てない?」って思うこともありました(笑)。

──その時に影響を受けているものが作品にも反映されているんですね。

そうかもしれないです。私が漫画家を目指すきっかけとなった、くらもちふさこ先生の作品にも、かなり影響されているんです。

──具体的に、どんな影響があったのでしょうか。

マンガの基本は、全てくらもち先生の作品から学びました。あまりに好き過ぎて、身体の中に絵や作風が沁み込んで、つい同じような絵を描いてしまったりすることもあって…(笑)。特に、泣く時の感じや、ネームの切り方はすごく似ちゃっていたんです。

──今のオリジナリティをどのように出していったのでしょうか。

う~ん…。たくさん描いているうちに、見つけ出していった感じですね。実際にくらもち先生にお会いした時には、直接、作品への愛を伝えさせていただきました。くらもち先生が「嬉しい」とおっしゃってくださったので、私もすごく嬉しかったですね。

──今は、いくえみ先生の影響を受けて、くらもち先生への思いと同様に、いくえみ先生を尊敬する漫画家の方がたくさんいらっしゃると思います。

いや~! お会いしたことがないので分からないですけど(笑)、いてくれたら、とても嬉しいです。

取材・文/吉田可奈

主演:小瀧望 インタビュー はこちら

 

プロフィール

 

いくえみ綾(いくえみ・りょう)

1964年生まれ、北海道出身。1979年、「別冊マーガレット」(集英社)にて「マギー」でデビュー。2000年の「バラ色の明日」で第45回小学館漫画賞を、2009年の「潔く柔く」で第33回講談社漫画賞少女部門を受賞した。2013年には「潔く柔く」が映画化、2017年には「あなたのことはそれほど」がドラマ化され、話題を集めた。現在、「そろえてちょうだい?」(08年~)、「G線上のあなたと私」(12年~)、「太陽が見ている(かもしれないから)」、「私・空・あなた・私」、「おやすみカラスまた来てね。」(共に14年~)の5本を連載中。

 

作品情報

 

『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』

東京の女子高で仲間外れになり、逃げるように札幌に引っ越した住友糸真(黒島結菜)。転校初日、彼女が出会ったのは、クールで上から目線だけど親友思いの舘林弦(小瀧望)、笑顔が眩しいちょっと病弱な桜井和央(高杉真宙)、そして最初に優しく声をかけてくれた国重晴歌(川栄李奈)。女子の間では“弦と和央はみんなのもの”というルールがあるにも関わらず、糸真は弦と和央と仲良くなってしまう。それを良く思わない晴歌は、グループで結託し、糸真を仲間外れの対象にしてしまう。そんな中、晴歌は弦に告白をして…。友情をとって、仲良く過ごしたい。でも“好き”という気持ちを伝えたい…。果たして糸真は、恋の主役“プリンシパル”になれるのか――?

映画『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』
原作:「プリンシパル」いくえみ綾(集英社マーガレットコミックス刊)
監督:篠原哲雄
脚本:持地佑季子
音楽:世武裕子
出演:黒島結菜 小瀧望(ジャニーズWEST)
高杉真宙
川栄李奈 谷村美月
市川知宏 綾野ましろ 石川志織 中村久美
鈴木砂羽 白石美帆  森崎博之
配給:アニプレックス
2018年3月3日(土)公開
©2018映画「プリンシパル」製作委員会 ©いくえみ綾/集英社
©いくえみ綾/集英社マーガレットコミックス 刊
公式サイト:http://principal-movie.jp

 

 

 

原作紹介

 

「プリンシパル」いくえみ綾/Cookie

2010年から2013年まで「Cookie」(集英社)で連載されたいくえみ綾の人気作。東京の学校で仲間外れにされ、3人目の継父とはうまくいかず、札幌の実父のもとへ引っ越した糸真。そこで出会ったのは、弦と和央というタイプの違うイケメン2人組。しかし、2人に近づくと仲間外れにされるらしい…。「もう、ぼっちは嫌!」と思いつつも、糸真は――?

 

いくえみ綾さんの好きなマンガ

 

「百鬼夜行抄」今市子/Nemuki+コミックス

普通の人には見えない不可思議なものが見えてしまう飯嶋律。彼が様々な妖魔と出会うことで展開していく、恐怖とユーモアが絶妙にブレンドされた物語。1995年より「ネムキ」で連載を開始し、2006年に第10回文化庁メディア芸術祭の漫画部門優秀賞を受賞した。2003年と2006年には舞台化、2007年にはドラマ化されている。