Apr 25, 2017 interview

ベテラン殺陣師、辻井氏が語る木村拓哉主演『無限の住人』の撮影裏と三池組の凄み

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現場で役者から最高のものを引き出していくのが三池組

 

──木村拓哉主演の『無限の住人』はアクション超大作。撮影はかなりハードだったと聞いています。

冬の京都での撮影だったんで、寒さが大変でした。いちばん大変だったのは出ずっぱりだった木村拓哉さんでしょう。薄い着物で足元は裸足同然でしたからね。最初は草履じゃなくて靴にしようかとも話していたんですが、木村さんから断ってきたんですよ。

──『無限の住人』の原作はコミックですが、三池組の打ち合わせはどのように行なわれたんでしょうか?

最近の三池組はほとんど打ち合わせしないんです(笑)。監督が忙しいというのもあるんですが、もともと三池組は絵コンテを用意して、みんな絵コンテを見ながら「ここはCGでやって、こっちは現場でやろう」みたいに絵コンテを中心にして打ち合わせしていたんです。最近は絵コンテができるのが撮影の前日だったりするんですが、美術スタッフもCG担当もみんな前から三池監督と一緒にやってきているので、現場で「これ、欲しいんだけど」と頼まれて、その場で懸命になってつくるみたいな感じになっていますね。事前に机の上であれこれ決める監督じゃないんです、三池さんは。役者の芝居を大事にする監督なので、立ち回りも木村さんがこう刀を抜いたなら、こう受けて……と現場で手をつくっていくしかない。木村さんが「こっちからだとちょっとやりにくいですね」と言えば、逆から手を考えていくことになる。臨機応変に対応しなくちゃいけない現場なんです。最近は『るろうに剣心』(12年)みたいにVコン(ビデオコンテ)をスタントマンが事前に用意して、それを見ながら役者は覚えていくというのが主流になってきているんですけどね。まぁ、三池監督は痛かったり危ないシーンはスタントに吹替えさせますが、それ以外は全部役者にやらせるんです。木村さんだけじゃなくて、福士蒼汰くんも戸田恵梨香さんも、みんな吹替えなし。お陰でこちらは終始ハラハラドキドキしどおしです(笑)。

 

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──「木村拓哉、撮影中に靭帯損傷」というニュースが流れました。

リハーサル中に木村さんの履いていた草履が横滑りしてしまったんです。普通の役者なら、そこで撮影中止なんでしょうが、木村さんは「やります」と主張して、監督も「じゃあ、やる?」ということで撮影を続行することになったんです。オープンセットを用意して、300人からの人間を集めていた現場だったので、木村さんにしてみれば休むわけにはいかないということだったんでしょう。300人斬りの後も冒頭の100人斬りの撮影が残っていて、それで万次は最初に足を負傷したという芝居にして、足を引き摺っていてもおかしくないようにしたんです。

──まさに「Show must go on」。三池組は走り出したら止まらない。

そうですね。100人斬りのシーンでは三池監督みずから「今、4人斬った、5人斬った……」と斬った人数が実際に100人に達するまで数えていましたね(笑)。三池組は監督にスタッフがアイデアを提供するというよりは、三池監督のやりたいことをどうすれば具体化できるのかをみんな懸命に考えている現場なんです。三池監督の期待を裏切れないし、期待プラスαのものを提供しようという気になる。台本どおりには、三池組は進まないですね。

──他の監督の現場に比べて、「大変だ」と感じたりはしませんか?

三池組は大変ちゃ大変です(笑)。以前は年に3〜4本撮っていましたが、最近は年に1本だけど、デカい作品になっていますよね。三池組に帰ってきた感覚が楽しいというか、「やっぱり、これだな」と思えてくるんです。他の現場と違って三池組は「これくらいで収めよう」という撮り方ではなく、やりたいことの最大限のことをやろうとする。そのことに対するベクトルがみんな一緒で、ブレがないんで、逆にやりやすいんです。スタッフも役者も「三池組はやりやすい」と言いますよ。

 

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