May 20, 2018

インタビュー

宮部みゆきインタビュー「作家31年目、ど真ん中の作品を書きました」

「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」――江戸で人気の袋物屋、三島屋の名物は、主人夫婦の姪である器量よしの娘、おちかが聞き手を務める対面形式の百物語だ。さまざまな語り手がおちかの許しを訪れて胸の内に凝る話を打ち明ける……。作家生活31年目に突入し、多くの代表作を持つ宮部みゆきさんが「今現在の自分のなかで間違いなく中心にある」と語る『三島屋変調百物語』シリーズ。五冊目となる最新刊『あやかし草紙』を中心に、本シリーズに込めた思い、人が怖い話に惹かれる理由、百物語がもたらす効用などについて、たっぷりと話を伺った。

 

──第一作『おそろし』が刊行されたのが2008年でしたので、今年でシリーズ開始からちょうど10年となりますね。17歳だったおちかも20歳になり、怪異を聞くことで自分自身の過去と向きあい、成長していって、本作ではとうとうお嫁にいきました。聞き手も交代することになりましたが、この展開は、いつ頃から構想されていたのでしょう?

第三作『泣き童子』(13)を書いていた頃からです。おちかはいずれいい人と巡り会って、百物語を聞く〈黒白の間〉から外の世界に出て、自分の幸せを見つけにいくのだろうな、と考えていました。相手の方はその段階では決めてませんでしたが、おちかの方から「私を嫁にもらってください!」と言いたくなるような人にしようと思いました。その時点で、越後屋の一人息子の清太郎(『おそろし』で初登場)、深考塾の若先生の青野利一郎(『あんじゅう』で初登場)と、おちかを意識している男性キャラクターたちもいたのですが、彼らではないのだろうな、と。

清太郎と出会ったときのおちかはまだ心の傷に深く苦しんでいる状態でしたので、恋愛ごとに目を向けるにはまだ早い。青野利一郎と出会った頃にはだいぶ立ち直っていて、一緒にデートなるものもして、彼はおちかの心を引っ張り出してくれました。だけど、それでもやっぱりちがうなと感じたのです。

そうして四作目の『三鬼』を書きはじめるときに浮かんできたのが、貸本屋・瓢箪古堂の勘一でした。この第四話「おくらさま」で彼は初めて出てきます。大事な人物なので、早いうちからキャラを立てていこうとは思いましたが、あんまり出しすぎて“ずるずる”になるのもいけない。突然ふっと現れて、おちかの世界をくるっと変えてしまう。そんな男性がこの子には似合うんじゃないのかなあ、と。

──勘一の登場と時を同じくして、三島屋の次男坊・富次郎も帰ってきます。彼はおちかの後を引き継いで今後の聞き手を務めます。

富次郎は修業先で喧嘩に巻き込まれ、大怪我を負ってその療養がてら戻ってきますね。九死に一生を得た経験から、お化けや異界にまつわる話に興味を抱くようになるのですが、闊達で、あまり人を恨まない人物にしようと考えました。いかにも主役、という感じのオーラを放ってはいないけど、好いたらしい姿かたちをして脇役もこなせる人。

──そして、この二人を本格的に新たなレギュラーとして、今作『あやかし草紙』ははじまります。第一話「開けずの間」は、“行き逢い神”という災厄を招き入れた家族が辿る悲劇を描いたもの。シリーズでも類を見ないほどの残酷な内容でしたが。

一家が全滅する話で無残ですよね。東京新聞などで連載していたのですが、書きながら自分でも、朝から読むにはきつい内容かもしれないと思いました。実際、読者の方から新聞社に「怖すぎます」というお電話があったそうです。

ただ、挿絵を手がけてくださったのが大ベテランの原田維夫さんでして、動きがあって物語性のある、それでいてリアルではないという画風なんですね。そんな原田さんの絵が残酷さを中和してくださった感じがしました。

──読みながら、実際に起きたいくつかの事件が頭をよぎりました。

他社の担当さんからも「北九州の事件(※1)と、尼崎の事件(※2)を彷彿としました」と言われました。あれらに関する本は何冊か読んでいて、この回を書く上でちょっぴり頭にありました。家族間でのおそろしい事件の報道にふれると、誰もが感じることなのでしょうが、どこかで止めることはできなかったのかな……と考えますよね。そんな思いが反映されています。

このシリーズ全体に言えることですが、現実社会で起きた事件や出来事からけっこう影響を受けてるんですよ。特にこの回は、お化けや怪異現象についての描写より、何でもない叙述の部分に怖さが出るように努めました。

※1 「北九州連続監禁殺人事件」
2002年に発覚した、北九州市のマンションで男女7人が死亡した監禁・連続殺人事件。
※2 「尼崎連続変死事件」
2012年に発覚した、兵庫県尼崎市で長期間にわたって行われていた連続殺人死体遺棄事件。

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