安藤の名演に「映画賞3つくらいもらえる」(リリー)。名シーンを生んだ是枝監督の即興的演出
──お二人で、夫婦として現場でこうしようと意識したようなことは?
安藤 全然。あまり夫婦として過ごしていないうちにいつの間にか夫婦になっていた感じがします。でもそれはリリーさんだったからそういう風に出来たんだなとも思っていて。
リリー たとえば、(樹木)希林さんと“親子らしくしよう”ということを過剰に意識しない方がいいと思っていたので、夫婦としても逆に意識しないで演じていたというか。劇中でお互いを何て呼んでいたのかという記憶がないから、たぶん呼んでないんですよね。子どもの名前はよく呼んでるけど。
──呼び方に繋がる後半のあるシーンでの安藤さん演じる信代の間が素晴らしくて鳥肌が立ちました。
リリー あのシーン、ものすごくいいシーンになっていますよ。あれだけ短く編集している是枝さんが、そこだけは長回しを全部使っていて。この作品を説明しているすごい名シーンになっているから、そこだけで何かの映画賞3つくらいもらえるんじゃないかな?
安藤 え~!やったー(笑)!あのシーンは、実は台本にない質問をされているんです。
リリー そうそう。あのシーンは監督が、質問する側の高良(健吾)くんと池脇(千鶴)さんにその場でカンペを出しながら演出していて。だから高良くんも池脇さんも「えっ?」という感じもありました。俺らも何を聞かれるかわからないまま答えるっていう。
──是枝監督の現場はそういう即興的な演出は結構あるのでしょうか?
リリー 当日になって台本のセリフが変わっているというのは常ですけど、その場で言われたことに反射で答えるという今回のような演出は、俺は初めてでしたね。
──安藤さんがリリーさんのシーンで印象に残っているのは?
安藤 一緒にやっていて感じていたのは、具体的なシーンではないんです。治さんと信代はお互いそんなに触れ合わない夫婦だけど、ふと触った時の感触とかがすごく印象に残っていて。その時の夫婦としての背中の感触とか、ちょんって触った時のその“ちょん”の感覚とかが、その時の夫婦の思い出として身体に残っていますね。
リリー うん、それはありますね。監督としては、治さんは性的にコンプレックスがあるという設定だったんです。そういう意識もあって、俺も触られてドキッとする時はありましたね。夫婦としてそこにいるというより、男女としてそこにいたという感覚はすごくわかります。
最近のオススメ本は“家族”にまつわる作品
──ありがとうございました。では最後に、「otoCoto」ではみなさんにおススメの1冊や愛読書、最近読んだ本などを挙げていただいているので、お二人の“1冊”を教えてください。
リリー リリー 人に薦められて今、読んでいるのが韓国の小説「こびとが打ち上げた小さなボール」です。まだ途中ですけどいい本だなと思います。ちょっと前の時代の、決して豊かではない家族の話なんですけど、自分が行ったこともない土地なのに、小説から何かがすごく匂い立つような本ですね。『万引き家族』の撮影後に読んでいたのもあって、思うところがありました。
安藤 最近読んでハマったのは「ヨチヨチ父 とまどう日々」という、ヨシタケシンスケさんのイラストエッセイです。ヨシタケさんが実際に経験しているお父さん目線の子育てのエピソードが描かれているんですが、子どもが生まれる友達や子育て中の友達みんなに配りたくなる本なんです。共感する部分もいっぱいあるし、お父さんってこんな感じなんだというのがわかって救われる部分がいっぱいありますし、子どもや夫が可愛らしく見えてきます。
取材・文/熊谷真由子
撮影/中村彰男
リリー・フランキー
1963年生まれ、福岡県出身。イラスト、デザイン、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など多分野で活動中。初の長編小説「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」はベストセラーとなり、映画化もされた。俳優としては、『ぐるりのこと。』(08年)でブルーリボン賞新人賞を受賞。2013年の『そして父になる』で第37回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、『凶悪』で優秀助演男優賞、2016年の『SCOOP!』で第40回日本アカデミー賞優秀助演男優賞に輝いた。『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(8月31日公開)、主演作『一茶』が公開待機中。
安藤サクラ
1986年生まれ、東京都出身。『風の外側』(07年)で本格デビュー。翌年の『愛のむきだし』で、第31回ヨコハマ映画祭助演女優賞などを受賞。2014年、『百円の恋』での高い演技力が評価され、第39回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など多くの賞に輝いた。その他の出演作に『かぞくのくに』『愛と誠』『その夜の侍』(12年)、『0.5ミリ』(14年)、『白河夜船』(15年)、『DESTINY 鎌倉ものがたり』(17年)など。2018年10月放送開始のNHK連続テレビ小説「まんぷく」で主演を務めることが決定している。
映画『万引き家族』
都会の真ん中の平屋に、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、家主である初枝(樹木希林)の年金だ。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。社会の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互いに口は悪いが仲よく暮らしていた。冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子・ゆり(佐々木みゆ)を、見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく──。
映画『万引き家族』
原案・監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:細野晴臣(ビクターエンタテインメント)
出演:リリー・フランキー 安藤サクラ
松岡茉優 池松壮亮 城桧吏 佐々木みゆ
緒形直人 森口瑤子 山田裕貴 片山萌美
/ 柄本明 高良健吾 池脇千鶴
/ 樹木希林
配給:ギャガ
2018年6月8日(金)公開
©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
公式サイト:gaga.ne.jp/manbiki-kazoku
「こびとが打ち上げた小さなボール」チョ・セヒ(著)、斎藤真理子(訳)/河出書房新社
1970年代より“こびと”連作で注目を浴びた韓国の小説家、チョ・セヒが1978年に発表した作品。70年代のソウルを舞台に、急速な都市開発を巡り、極限まで虐げられた者たちの千年の怒りが渦巻く祈りの物語が展開する。四半世紀にわたって韓国で読まれた名作で、本作で韓国の文芸賞“東仁文学賞”を受賞した。
「ヨチヨチ父 とまどう日々」ヨシタケシンスケ(作)/赤ちゃんとママ社
イラストレーターであり絵本作家のヨシタケシンスケによる初の育児エッセイ。初めて“父”となった作者の戸惑いが描かれ、“ママっていつもイライラしてるよね”“パパって何か蚊帳の外だよね…”“パパになってわかったトホホな真実”など、多くのパパとママの共感を呼ぶエピソードで話題を集めている。