May 09, 2019 interview

朝井リョウは映画『チア男子!!』をどう観た? 映画版ならではの魅力、目標の青春スポーツ小説を語る

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今読み返しても新鮮に驚く、目標とする青春スポーツ小説

――ありがとうございました! 最後に、otocotoでは出ていただいた方に、ご自身のルーツになった、または影響を受けた作品をお聞きしています。前回、『何者』でご登場いただいたときは、オススメ作品として評伝「村に火をつけ、白痴になれ」と「一投に賭ける」をご紹介いただきました。この他に朝井さんが影響を受けた作品はありますか?

今回は青春スポーツものということで、「一瞬の風になれ」にします。高校生のときに初めて読んで、とにかく面白くて、一生読み終わりたくないけどページが進んでしまうという幸せなジレンマを感じました。「チア男子!!」を書いたとき、著者の佐藤多佳子さんと対談させていただく機会があったので改めて読み返したんですけど、そのときは技術の面でいかにすごい小説なのかということがよくわかりました。

―― 一読者だったのが小説家という同じ立場になって読むと違う視点も見えてきそうですよね。

「チア男子!!」は外見でわかりやすくキャラクター付けをしないと、16人を書き分けるということがどうしてもできなかったんです。なので、わりと漫画的なキャラクター付けをしていったのですが、「一瞬の風になれ」は一切そういうことをしていない。例えば「この人は練習にいつも5分前に来る」とか「本番前にトイレに行く回数が増える」とか、そういう微細な行動で各キャラクターの性格を書き分けているんです。それってめちゃくちゃ難しいことなんですよね。正直、早めにキャラクター付けしちゃった方が書く側としても楽なので、忍耐とか辛抱強さも必要になってくる。でも「一瞬の風になれ」は上中下巻を通してそれぞれの人間性を理解していくことができて、今でも読み返すと新鮮に驚きます。「チア男子!!」は今でも書き分けができなかったと思っていますし、もう1回、いつかまた青春スポーツ小説にリベンジしたいという思いがあります。その目標はやっぱり「一瞬の風になれ」ですね。

取材・文/熊谷真由子
撮影/中村彰男

プロフィール
朝井リョウ(あさい・りょう)

1989年生まれ、岐阜県出身。2009年、「桐島、部活やめるってよ」で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。「チア男子!!」(11年)で高校生が選ぶ天竜文学賞、「何者」(13年)で直木賞、「世界地図の下書き」(14年)で坪田譲治文学賞を受賞。他の小説に「もういちど生まれる」「スペードの3」「武道館」「何様」「ままならないから私とあなた」、エッセイ集「風と共にゆとりぬ」など。最新作は「死にがいを求めて生きているの」。

作品情報
『チア男子!!』

道場の長男に生まれ、幼い頃から柔道を続けてきたハル(横浜流星)。しかし、連戦連勝の姉・晴子(清水くるみ)と比べて自分に才能がないことに悩んでいた。怪我をきっかけに柔道から距離を置いていたハルに、幼なじみで親友のカズ(中尾暢樹)は「一緒に新しいことを始める」と宣言する。なんと、それは前代未聞の“男子チアリーディング部”の創設だった――。
原作:朝井リョウ「チア男子‼」(集英社文庫刊)
監督:風間太樹
脚本:登米裕一
出演:横浜流星・中尾暢樹 瀬戸利樹 岩谷翔吾 菅原健 小平大智 / 浅香航大
配給:バンダイナムコアーツ/ポニーキャニオン
2019年5月10日(金)公開 
©朝井リョウ/集英社・LET’S GO BREAKERS PROJECT
公式サイト:https://letsgobreakers7.com/

原作紹介
©朝井リョウ/集英社
「チア男子‼」朝井リョウ/集英社文庫刊

朝井リョウが、実在する男子チアリーディングチーム“SHOCKERS”をモデルに、大学在学中に執筆した小説。人を応援することで主役になれる男子チアリーダーたちを描く青春スポーツ群像劇で、2011年にコミカライズ、2016年にはアニメ化・舞台化された。

朝井リョウさんが影響を受けた小説
「一瞬の風になれ」佐藤多佳子/講談社文庫

佐藤多佳子が2006年に発表した、陸上にかける高校生の姿を描く青春小説。天才的なスプリンターで幼なじみの連と高校陸上部に入部した主人公・神谷新二の3年間を三部構成で描き、2007年に本屋大賞、吉川英治文学新人賞を受賞した。