- 小山:
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最初の挫折から10年間がむしゃらにがんばって、何となく自分ではいっぱしの声優になれたなって思っていたんですよ。たぶん、その頃に文ちゃんに偉そうなことを言ったんだと思うんだけど(笑)、そんなある日、アラレちゃんの収録時に、大先輩である田の中勇さんが「茉美も、これでやっとスタートラインに立ったね。これからだね。」って言って下さったんです。
その言葉がね、ズーーーンって来たんですよ。自分では一人前のつもりだったから。確かにどんな仕事でも10年はかかるでしょ。10年やって、初めてスタートラインに立てるものですものね。
- 古川:
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金言ですよ。
- 平野:
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厳しい言葉ですけど、そういうことは可能性のある人にしか言わないわよね。
- 小山:
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そこがスタートで、そしてそれから約30年、今、やっと一人前になったって言えるのかなって。でも、まだまだこれで良いって世界ではないですから、今後も精進しないと。
- 平野:
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茉美ちゃんは、今、どういう活動をしているの?
- 小山:
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最近は、年齢的なこともあって、残りの人生で何ができるかを考え始めています。40年以上声優をやってきた恩返しをしたい……なんて考えていた時に、たまたま日本神話と出会ったんですよ。子供の頃に、ギリシア神話なんかは読んだことがあったんですが、よく考えて見ると、日本の神話をほとんど読んだことがなかったな、と。せいぜい、八岐大蛇(やまたのおろち)とか、因幡の白ウサギくらいで……。
そんなきっかけで「古事記」を紐解いてみたら、すごく面白かったんですね。
- 古川:
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どういうところが面白かったんですか?
- 小山:
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海外の神様って、私たちが住んでいる世界の外側にいる絶対的なものであることが多いんですよね。でも、日本神話では、絶対神というよりも、存在そのものが神様なんですよ。あらゆるものの中に流れているエネルギーが神様なんです。
だから西洋には0って概念があるんだけど、日本には近代まで0という概念がなかったんです。数え年なんかがそう。生まれた瞬間から1歳。つまり、存在から始まっているんですよ。あと、経典的なものもないですよね。こうしなさい、ああしなさいという指示書がない。じゃあどうすればいいのか? 存在する全てが神様で、それが教えてくれてるんだよ、と。
- 平野:
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なかなか興味深い考え方ですね。
- 小山:
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それを面白いな~って思った時、自分にできることはそれを語り継ぐことじゃないかなって思ったんです。そんな中、東日本大震災で大きな被害を受けた多賀城の八幡神社の2015年6月に行われた「第11回 みんなの鎮守の森植樹祭」で「日本神話(古事記)」の読み語りを奉納させてもらったんです。
- 平野:
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『古事記』の読み語りってことは、漢文をそのまま読んだの?
- 小山:
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そのままだとさすがに意味が分からないので、古事記の現代語訳を探したんだけど、学術的な本、あるいは子供向けの本になってしまって、普通の大人向けの読み語りができるものが見つからなかったんですね。
そこで、また何を思ったのか、自分で翻訳脚色してみようと思ってしまって(笑)國學院大學で古事記を教えていらっしゃる、現・湯島天満宮権禰宜の小野善一郎先生に監修をお願いして、『日本神話イザナミ語り』(青林堂)を書いたんです。現在もそれを元に日本神話を語る「イザナミプロジェクト」という活動をしているの。
古川さんとも一度、ラジオ番組(文化放送「青山二丁目劇場」)に呼んでいただいて、そこで一緒に読み語りをしたのよね。
- 古川:
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またやりたいよね。国生みの話でね、天地創造の日本版みたいな。
- 平野:
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日本神話にはほかにはどんな話があるの?