制作会社は、がんばっている人が力を発揮できる場所でありたい
──湯浅監督の愛読書、影響を受けた作品を教えてください。
小説だとサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」とか好きですね。具体的に影響を受けた作品といえば、妹尾河童さんのエッセイ「河童が覗いた」シリーズでしょうか。「河童が覗いたトイレまんだら」だと、いろんな著名人の自宅トイレが図面として紹介され、とても細かいところまで描かれているんです。図面を眺めているだけで楽しいし、エッセイとしても面白い。作品に登場する建物のセットを考える際に参考になりますし、海外旅行するときは「トイレを見ておかなくちゃ」という気になります(笑)。
──『きみと、波にのれたら』は、ハリウッド映画『ゴースト/ニューヨークの幻』(90年)や『タワーリング・インフェルノ』(74年)といったエンターテイメント作品も彷彿させますね。
『ゴースト』は意識しました。登場人物が4人程度なのに、すごく面白くできていると思います。火事になる高層ビルが登場するので、『タワーリング・インフェルノ』っぽくもありますよね。実体験をベースにアイデアが生まれることもあれば、ずいぶん前に観て自分の記憶の一部になっているものから生まれてくるものもあると思います。あと、映画や本ではないのですが、連結送水管が僕は好きなんです。高いビルなどの消火活動のために設置されているシステムなんですが、その送水口にポンプ車はホースを繋ぐことで消火活動が出来るんです。よく観ないと分からないと思いますが、連結送水管が個人的に好きなもので、劇中でも描いています(笑)。
──連結送水管が好き、という方に初めてお会いしました(笑)。ユニークな感性の持ち主である湯浅監督は、2013年にアニメ制作会社「サイエンスSARU」を設立して代表を務めていますが、アニメーターと会社運営の二足のわらじは大変ではないですか?
うまく回れば、そう大変ではないはずです(笑)。ちゃんと仕事をしている人が報われる職場でありたいなという気持ちで始めた会社です。がんばっている人が、ちゃんと力を発揮できる場所でありたいですね。
──『DEVILMAN crybaby』で“神回”と呼ばれている第9話をひとりで原画を描き上げたアニメーター・小島崇史さんが、『きみと、波にのれたら』ではキャラクターデザイン&作画監督に起用されています。
そうです。『DEVILMAN』での働きっぷりが見事だったので、今回はキャラクターデザインを含めた大きな役を頼みました。今どき珍しいほど、熱を持った人物です。『きみ波』でもひとり作画監督として、全シーンをチェックし、思い切った直しを入れていました。美術監督の赤井文尚さんもそう。二人は僕が心配するほどの仕事量でしたが、見事にやり遂げてくれました。がんばっている人を見ると、やっぱり僕自身がすごく励まされるんです(笑)。
取材・文/長野辰次
撮影/中村彰男
1965年、福岡県生まれ。『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)や『クレヨンしんちゃん』(テレビ朝日系)の作画・演出で注目を集める。『マインド・ゲーム』(04年)で劇場監督デビュー。2013年よりアニメ制作会社「サイエンスSARU」を設立。主な監督作に『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』(ともに17年)、Netflixオリジナルアニメ『DEVILMAN crybaby』(18年)など。テレビアニメシリーズ『映像研には手を出すな!』(NHK)、『SUPER SHIRO』などを現在制作中。
小さな港町へ越してきたひな子(川栄李奈)は、サーフィンが大好きで、波の上では怖いものなしだが自分の未来については自信を持てずにいた。ある火事騒動をきっかけに、消防士の港(片寄涼太)と偶然出会い、恋に落ちる。お互いがなくてはならない存在となった二人だが、港は溺れた人を助けようとして、海で命を落としてしまう。大好きな海が見られなくなるほど憔悴するひな子。そんなある日、ひな子が二人の思い出の歌を口ずさむと、水の中に港が現れる。「ずっとひな子のこと助けるって約束したろ?」――死んだはずの港と再び会えたことを喜ぶひな子だが……。奇跡がもたらした二人の恋の行方、そして、港が再び姿を見せた本当の目的とは――。
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン・総作画監督:小島崇史
音楽:大島ミチル
声の出演:片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎
主題歌:「Brand New Story」GENERATIONS from EXILE TRIBE(rhythm zone)
アニメーション制作:サイエンスSARU
配給:東宝
2019年6月21日(金)公開
©2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
公式サイト:https://kimi-nami.com/
1930年生まれ、兵庫県出身の舞台美術家・エッセイストの妹尾河童による人気シリーズ。「河童が覗いたヨーロッパ」「~インド」「~ニッポン」や、「河童が覗いたトイレまんだら」、「~『仕事場』」、「~50人の仕事場」などがある。また1997年には、自身の少年時代を描いた自伝的小説『少年H』を発表。同作はテレビドラマ化、映画化された。