Sep 15, 2017 interview

【いのうえひでのりインタビュー】小栗旬、阿部サダヲ、松山ケンイチ・・・豪華キャストとまわり続けるマラソンも3周目に

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新感線初参加のキャストが多いけれど

 

──“鳥”は、阿部さんの捨之介がこれまでにない新しさでした(それまでは、古田、市川染五郎、小栗旬と女性扱いのうまい遊び人ふうだったが、阿部の捨之介は、ヘンなおじさんを装っている)

僕としては捨之介を阿部ちゃんがやってくれると決まった時点で、安心だったんですよ。かずきさんが、阿部さんの捨之介をテロリストにしたいと言って、それは一番大きな変更点でしたが、うまくいったと思います。

──キャストに合わせて設定や台本に手を入れているんですね。

キャストありきです。

──花、鳥、風……と改めてコンセプトを教えてください。

“花”は一発目なので、勢い良く、シンプルに。織田信長亡き後の信長ユーゲントたちの話、『ワカドクロ』(11年)の進化版のようなものをやりたかった。“鳥”は、阿部ちゃんで、テロリストというか、天魔王をずっと狙っている忍びの者の話をベースに、森山未來と早乙女太一の殺陣でショーアップしたものに。“風”は、原点に帰って、捨之介と天魔王を松山ケンイチ君のひとり2役でやろうと考えました。“月”ははじめてのWチーム制になります。

──“風”も“月”も、新感線初参加の方も多いですね。

“風”は、向井理君、田中麗奈さん、岸井ゆきのさん、生瀬勝久さんが初めて。でも、信頼できそうな人たちばかりなので、いけそうな気がしています。“月”は、より未知の俳優の方が多く、どうなるか楽しみですね。

 

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──人気の蘭兵衛役を向井さんに決めたわけは。

彼が出た舞台を何本か観たら、声が通るし、立ち方もいい。ただ立ち回りが多いので、怪我のないようにしてほしいと思っています。サッカーをやっていたから大丈夫かと思いますが、舞台の動きはまた違いますから。

 

芝居の微妙なニュアンスを楽しんでいる

 

──蘭兵衛の立ち回りのシーンの背景が、以前は蘭でしたが、“花”から彼岸花になったことには理由がありますか。

死に向かうというか、あの世とこの世の間のイメージを強めたいと思って彼岸花にしました。蘭だと、そこが蘭兵衛の世界であるというイメージだけに固定されてしまいそうですが、もっと、作品全体を象徴するものにしたかったんです。一幕のエンディングで、捨之介が『三途の川に捨之介』と言っていることをはじめとして、登場人物はみんな、死に場所を探している。その人たちがもう一回、生きようと思う物語なので、彼岸花のほうがメッセージ性を込められるかなと。

──そういうところにも、長年やってきただけある成熟が見えますね。

1990年からやっていますからね(笑)。

──90年の初演で、台本を読んだ時と、今、やっていて、感じることは違うものですか?

昔はほんとに集団時代劇をやりたいって言う思いだけでしたよ。黒澤明の『七人の侍』だったり、少年漫画のような活劇をやりたいという。今、読むと、やっぱり感覚が若いと思いますよ。昔の自分たちが、若さだけで突っ走った台本を、27年経った今の僕らの年齢でどう表現するかみたいなところが直接的な課題になっている気がします。

 

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──『吉原御免状』(05年 いのうえ歌舞伎第二章と銘打っている)くらいから、この12年間ほど、いのうえさんは、大人のドラマのあるものを模索していますね。

昔は、捨之介たちの過去のエピソードなんか、台詞で説明しとけばいいやって感じでした(笑)。主にチャンバラ、時々説明みたいでしたからね。今は、説明を単純に説明だけにしないで、過去のお互いの因縁が滲み出るようにしたいと思います。例えば、“花”で捨之介と蘭兵衛が川辺で昔の話しをしている時、このふたり、過去に何かあったんだなっていう空気が漂いますよね。ああいう腹芸のような芝居は、昔はやってなかったと思います。

──そういう芝居が楽しめるようになりました?

なりましたね。むしろそっちのほうが面白い。チャンバラはチャンバラで面白いですが、そこにも意味合いが出てくるようになりました。