弱点を把握することが大事
──最初、その客席が回る劇場でやりましょうと提案された時、いのうえさんはどう思われたんですか?
なんか面白そうだから、挑戦してみたいという思いはありましたが、ロングランだとは思っていなくて。だから、1年半以上続けてほしいと言われた時は、さすがに無理だと申し上げましたよ。
──“花”、“鳥”と終えた今は、かなり自信をもたれたのでは?
自信というよりは、弱点を把握しました。IHIステージアラウンド東京は、決して、何でもできる自由な小屋じゃないんですよ。まず、照明を吊るところがないのでピンスポットが打てない。それから、アクトスペースの奥行きがそれほどない。セットをいくつも作り置いておけるという最大の利点をはじめとして、できることがある反面、できないこともあって。そこをどうやってクリアしていくかが毎回の課題になっています。あとは、2ヶ月以上の長期公演をシングルキャストでやっているので、役者の肉体の負担たるや、かなりのものですから、負担を軽減しつつも、『髑髏城の七人』の最大の魅力である、大チャンバラ大会を、いかにハデに盛り上げていくかも大きな課題になっています。ふつうの劇場は、舞台袖があって、出番が終わったら、袖にはけて、次の出番を待ちますが、この劇場は、360°セットが組んであるので、次のセットに俳優が移動しないといけないので、その分、体力を使うんですよ。移動が大変じゃないようにセットプランを考えましたが、そもそも、この劇場用に書いた戯曲ではないから、限界がありましたね。
──“花”で古田新太さんがローラースケートを履いていたのは、セットの裏をスケートで移動するためというわけではない?
いや、裏はもっと大変なんですよ。狭いし、あちこちに階段があるし、ローラースケートなんて履けないですよ。むしろ、そんな環境で、古田にローラースケートをいかにスムースに履かせるかが大変だったんですよ(笑)。
──あのアイデアはどなたのものですか?
“花”の贋鉄斎の自転車とローラースケートは、古田のアイデアです。まあ、ああやって出てきたら面白いというひじょうにストレートな子供のような発想でしょうね。そのアイデアを生かすためのネタを書いたのは僕です。
──贋鉄斎のコーナーは、作品の本質部分ではないですけれど、“鳥”の池田成志さんといい、お客さんがあそこで盛り上りますね。
古田がハードルを上げたところがありますね。“風”もプレッシャーですよ。橋本じゅんだから、絶対面白くなるに決まっているという無言の圧力がある(苦笑)。
──そこの話ばかりしたら申し訳ないですが、贋鉄斎のコーナーは、ベテランの力はすごいと思わされます。
そうですね。“鳥”では、池田成志を相手する阿部ちゃん(阿部サダヲ)もすごかったです。なんであんなに贋鉄斎のシーンが伸びているかといえば、あのふたりだからでしょう。“花”は、古田がひとりでボケ倒していたけれど、今回は成志と阿部ちゃんの丁々発止が面白いですね。