Apr 02, 2016 interview

第2回:井上和彦が「島村ジョー」に起用されたワケ

A A
SHARE

 

k_inoue02d

 

藤井

続いては、井上さんの話ではなく、井上さんから見た若手について聞かせてください。一時期は音響監督やアフレコ監督など、声優の演技を指導・監督する立場に就かれたこともありましたが、そんな井上さんからみて、今どきの声優はどのように映っていますか?

井上

いや、本当に上手だなと感心しています。しかも、僕らが始めたころよりもなりたい人の多い狭き門になってしまっていますよね。本当に巧い人じゃないと出てこられなくなっていますし、そういう人でも芽が出るまでに5年、10年かかってしまいます。だから、今、生き残っている人たちは皆、辛抱していた人ばかり。洋画なんかをやらせるとすごく上手で驚かされますよ。

藤井

そういった後輩たちと演技するのは楽しい?

井上

楽しいですね。お互い文句を言い出したらキリがありませんからそこは考えないほうが良い。ハッキリしているのはいつの時代も、どの世代も、皆で良い作品を作っていこうとしていること。そこを大事にしたいと思っています。それに若い人はどなたも役に対して謙虚ですよ。新人時代の私のような失敗をする人はいないんじゃないかな。

藤井

反面、逆に井上さんのような“野性味”のある人も減っているように感じますね。

井上

そんなやつはもういないですよ(笑)。今の人は声優という仕事をきちんと調べてからやってくる。中学・高校の頃から憧れですからね。しかも自分なりにしっかりと訓練をしている。僕がこの時代の生まれだったらとてもじゃないですけどデビューできなかったでしょうね。できたとしても20年くらいかかりそうです(笑)。

 

k_inoue02e

 

藤井

ところで、先日、水島裕さんにインタビューした際、最近また水島さん、三ツ矢さんらとつるみはじめたとお伺いしました。

井上

そうですね。一昨年、三人で芝居をやったんですが、今年も新しいことを仕掛けようと思っています。

藤井

水島さんは当時よりも今の方が仲が良いかもとおっしゃっていましたよ。

井上

そうかもしれません。デビューから40年かかってそれぞれのスタイルが確立してきて、お互いにリスペクトできるようになってきています。ここに来て、理想的な良い関係が築けているのかな、と。

水島、三ツ矢のほかにも、最近は『NCIS ~ネイビー犯罪捜査班』という海外ドラマの収録で毎週のようにキャストと飲み歩いています。上は80代の千田光男さん(洋画吹き替えを中心に活躍)から、下は20代、30代の若手まで、これほど幅広い年代が一緒になって1つのものを作りあげる職場ってのはちょっとほかにないですよね。世代を超えて刺激しあえる仕事というのが「声優」という仕事の一番良いことなのではないかと考えています。

藤井

おっしゃる通りですね。ちなみに言いそびれてしまいましたが、実は私も井上さんとお仕事をさせていただいたことがあるんですよ。「夜のドラマハウス」では何本かドラマを書きましたし、2008年に人気コミック「島耕作」シリーズで彼が社長に就任した際にラジオでオンエアしたフェイクドキュメンタリー『文化放送ライオンズナイタースペシャル 社長就任記念 DJ島耕作の阿久悠リクエストパレード!』の脚本を書かせていただきました。

井上

ええっ、そうなんですか? あれもミキサーさんが推薦してくれたそうなんですよ。島耕作の声をやるとモテまくると聞いてお引き受けしたんですが、別のイベント(ラジオ番組の直前に行なわれた「社長就任会見」)で作ったPVでは英語で受け答えするシーンがあって本当に苦労しました。すごく流ちょうに話しているように聞こえたかもしれませんが、あれはネイティブの方の発音をそのままマネしているだけですからね? とてもじゃありませんが、今はもうできませんね(笑)。

 

k_inoue02f

 

構成 / 山下達也  撮影 / 田里弐裸衣

 

 

profile_k_inoue

井上和彦(いのうえかずひこ)

神奈川県出身。二枚目の正統派の役柄を中心として、長く第一線に立ち続けている。近年ではNARUTOのはたけカカシなどの主人公を導く役やジョジョの奇妙な冒険のカーズのような頭の切れる悪役、また夏目友人帳のニャンコ先生のような特徴的なキャラクタ―など、幅広く演じている。声優以外にも、音響監督を務めたりもしている。 「キャンディキャンディ」のアンソニー、「美味しんぼ」の山岡士郎、「サイボーグ009 」の島村ジョー、「タッチ」の新田明男、「蒼き流星SPTレイズナー」のレイジ、「おそ松さん」のお父さんなど多数の声の出演作がある。

 

profile_hujii

藤井青銅(ふじいせいどう)

23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」…など多数。
現在、otoCotoでコラム『新・この話、したかな?』を連載中。