Jan 24, 2025 interview

松重豊 監督が語る 映画だからこそ伝えたいことがある。12年続く人気ドラマシリーズの映画化『劇映画 孤独のグルメ』

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日本の映画の未来のために

池ノ辺 「孤独のグルメ」の映画化にあたり、最初に色々整理するというお話をされました。そのあたりは今、どう捉えていますか。

松重 今の日本のショービジネス、エンタテインメントの世界というのは、このままだと韓国にも中国にも台湾にも置いていかれるような状況、そういう危機感がありました。じゃあ誰がその責任を取るのか。僕らはこの世界に30年、40年いて、この体たらくです。じゃあ、その失われた30年の責任を僕らがきちんととって、さらに「こういう形だったら世界と渡り合える」というビジネスモデルを作らなければいけない。今回の映画化、そして自分が監督を引き受けたことの一番の意味はここにあると思っています。そして自分がこれをやることで、世の中に映画を目指そうという若い人たちが増えてくれば、それで、もういいと思っています。

池ノ辺 2011年の震災、そしてコロナ禍を経て、映像業界の考え方もずいぶん変わってきました。一方で映像の形もテレビや劇場映画だけでなく、いろいろな形ができてきて、その中でこれから若い人たちはどうするんだろうと、私の中にも不安に思う部分はあります。そんな中で今回、そういう意識を持った監督のもとで一つの形として劇映画ができた。それは素晴らしいことだと思います。また、今回松重さんは、主演だけでなく監督・脚本の役割も果たされました。これは役者として演じるだけの時とどう違いましたか。

松重 役者としての視線というのは、宣伝戦略する上でも使い道はあります。一方、芝居の切り口というところから見ると、やはり自分も演者の側の視点になります。映画を作っていく上では役者の人たちが気持ちよく演じることができるというのは非常に大事で、それがいい結果につながると思っています。だから役者の視点を持っている自分が監督を務めるというのは意味のあることだと思います。今の所、僕は次の仕事は受けていないし、自分が今後ドラマでどう演じるかということは今の自分のビジョンの中では皆無なんですけど、これまでの経験値を次の映画作り、ドラマ作りに生かすというところに、そろそろシフトしていってもいいかなと思っています。

池ノ辺 最近、俳優さんたちが監督や企画プロデューサー、ディレクターとして映画やドラマ作りに関わるということが増えていますよね。それはそれで世界が広がって楽しみな気がします。井之頭五郎も寅さんみたいに長く続く映画になっていくんじゃないですか(笑)。

松重 寅さんは無理でしょうけど、いずれにしても結果はお客さんが決めることだと思っています。

池ノ辺 ヒットしなかったら「孤独のグルメ」をやめると聞きました。

松重 それはもう間違いないことです。単純に目標にしたい数字があるので、それをクリアできなかったら「僕の目論見を外しました」ということで責任を取ってこのシリーズから身を引くというのは皆に言ってます。

池ノ辺 続くことを祈っています。では、最後になりましたが、松重監督にとって、映画って何ですか。

松重 ここまで言った上で、こういう答えがいいのかはわかりませんが、自分にとっては「おもちゃ箱」です。いろんなものが入っていて、だから自分はその中にいるだけで、もうどこにいかなくてもいい。映画という箱の中にいれば満足できる。しかも今までは演者、俳優という箱だけだったのが他の箱も見てしまいましたからね。その箱の中にいるということ、その箱の中に何を詰めようかと考えることが、今は楽しくてしょうがないですね。

池ノ辺 大変な責任を取り切った上で、最後に「楽しかった」と言えるのは素晴らしいですね。今後のご活躍も楽しみにしています。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
松重 豊(まつしげ ゆたか)

監督・俳優

1963年1月19日生まれ。福岡県出身。86年、蜷川幸雄主宰のGEKISHA NINAGAWA STUDIOに入団し、舞台で活躍。1992年、黒沢清監督の『地獄の警備員』で映画デビュー。以降、映画・ドラマ.舞台などに活躍の場を広げる。主な映画出演作に『しゃべれども しゃべれども』(07/毎日映画コンクール男優助演賞)、『ディア・ドクター』(09/ヨコハマ映画祭助演男優賞)、『検察側の罪人』(18)、『ヒキタさん!ご懐妊ですよ』(19)、『ツユクサ』(22)、『ラストマイル』(24)、『Cloud クラウド』(24)、『正体』(24)など。またFMヨコハマ「深夜の音楽食堂」担当など音楽的関心の深さでもよく知られている。ドラマ『孤独のグルメ』の主演は2012年から務め、今や松重豊=井之頭五郎というほどお茶の間に広く浸透している。

作品情報
『劇映画 孤独のグルメ』

井之頭五郎は、かつての恋人・小雪の娘、千秋からとある依頼の連絡があり飛行機の機内で腹を減らしながらフランス・パリへ向かう。パリに到着し、空腹をいつものように満たし、千秋と共に依頼者の祖父の元へ向かうと、そこで、千秋の祖父である一郎から、「子供の頃に飲んだスープがもう一度飲みたい。食材を集めて探して欲しい。」とお願いされる。わずかな地名をヒントに、五郎も行って食材を探してみることにしたのだが‥‥。フランス、韓国、長崎、東京。究極のスープを求めて世界へ漕ぎだす五郎。しかし、スープ探しのはずが、行く先々で様々な人や事件に遭遇。次第に大きな何かに巻き込まれていく。

監督:松重豊

脚本:松重豊、田口佳宏

出演:松重豊、内田有紀、磯村勇斗、村田雄浩、ユ・ジェミョン(特別出演)、塩見三省、杏、オダギリジョー

配給:東宝

©2025「劇映画 孤独のグルメ」製作委員会

公開中

公式サイト gekieiga-kodokunogurume

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。最新作は『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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