Jul 27, 2024 interview

武内英樹 監督が語る  オールスターキャストが演じる個性的な偉人たちと国民の対話の物語『もしも徳川家康が総理大臣になったら』 

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人気ドラマの全盛期から、コメディ映画監督に

池ノ辺 監督は、早稲田大学を卒業後フジテレビに入社し、そこから映画監督をされているわけですが、昔から映画監督になろうと思っていたんですか。

武内 いや、まったくなかったですね。それどころかテレビっ子でもなかったんです。うちの親が、テレビを見たらバカになるといって、中学2年の時にテレビが壊れたのをいいことにずっとテレビを買わなかったんです。だから中3から大学生まで、ほとんどテレビを見ていません。それが就職活動の時、ちょうどバブルの頃でマスコミが流行っていたんですね、友人にくっついて受けたら間違って入っちゃったんです。ドラマ部に配属されたんですが、当時の自分はほとんどドラマを見たことがないという状態でした(笑)。それでも入社1年目に「東京ラブストーリー」(1991)、2年目に「101回目のプロポーズ」(1991)、その後も「愛という名のもとに」(1992)、「ひとつ屋根の下」(1993)などの作品が放映されていた時代です。当時はいわゆる月9のドラマが視聴率35%という時代、最後は37.8%くらいまで行きました。それまでドラマなんて見たことがなかったのが、たまたまそういう人気のドラマの制作現場の真っただ中にいて助監督として働けて、それはすごく楽しかったです。

池ノ辺 あの頃テレビと映画がものすごく盛り上がって、ドラマも面白い時代でしたよね。

武内 面白かったですね。きつい現場でしたけど作っているうちにだんだん喜びを覚えてきました。その後、「神様、もう少しだけ」(1998)では自分がチーフディレクターになっていました。この頃は社会派の作品が多かったのですが、「カバチタレ!」(2001)あたりからコメディに目覚め始めたんです。「電車男」(2005)、「のだめカンタービレ」(2006)などで、どんどん、コメディの面白さと奥深さを感じられるようになって、その「のだめ~」の映画版から映画監督を務めるようになりました。『テルマエ・ロマエ』(2012)『今夜、ロマンス劇場で』(2018)と続いて今に至ります。

池ノ辺 それでフジテレビは2年前にお辞めになったんですね。バカになるからとテレビを見なかった時代から、トレンディドラマ全盛期にフジテレビに入ってドラマを撮って、今や映画監督として、役者さんたちと酒を酌み交わしながらいい作品を作っている。すごい流れですね。そんな監督にとって、映画って何ですか。

武内 こういったら誤解を招くかもしれませんが、自分にとってはプラモデルを作っているような感じです。

池ノ辺 監督はプラモデルが好きなんですか?

武内 好きです。子どものころからよく作っていました。プラモデルは、一つ一つのパーツを組み立てていくんですが、毎日の作業で、本当に一部分しかできないわけです。それでも最終的にどういうモデルが出来上がるのかを想像しながら作りあげていく。映画も同じで、細かな部品を毎日作って、それを編集で重ね合わせて、最終的には音楽をつけたりCGを入れたり、という最後の塗装のような作業がある。すごく贅沢な趣味をやらせてもらっているような感じです。

池ノ辺 好きなことを仕事としてできているというのは、すばらしいことですよね。

武内 ありがたいことです。特に自分はちょっとトリッキーな作品をやることが多いので、完成形がどうなるのか、自分でも読めないところがあるんです。もちろんある程度はこんな感じにしようと想定はするんですけど、固めきっていないところで手探りでパーツを作りながら進めていく、あるいは、途中でいろんな人の意見を聞いて、そういう見方があるんだ、そういう面白さがあるんだ、という発見をしながら、パーツを作り変えてはめていく。そういう作業が今はすごく面白くて楽しいですね。

池ノ辺 この作品でも途中で変わったところがあるんですか。

武内 そうですね。この作品は2年前に作り始めたんですけど、当時の想定と違っていることはいくつかあります。例えば音楽は、最初は「大江戸捜査網」のテーマのようなものを想定していたのが、思いがけないものがめちゃくちゃはまりました。登場人物も実はずいぶん原作と変わっています。菅原道真や平賀源内らが退場して、聖徳太子や紫式部が入閣してます。

池ノ辺 それはどういう意図から変更したんですか。

武内 一つは、多くの人にとってどれだけイメージが広まっているかということがあります。僕は歴史が結構好きなので、平賀源内も知っていますけど、知らないという人が多いということで外したりしています。そこは探るのが難しかったですね。

それと、日本の歴史というのはギネスブックにも載っているけれど、世界最古の歴史の長さがある。そういうことをみんなが知らないというのはちょっと問題だと思ったんです。だから日本の最初の一滴から、利根川の河口まで、脈々と流れる大河が、過去から現代までをつなぎ、さらに未来までつないでいかなければいけない。それはこの作品の大きなテーマの一つですから、その河の長さを表現するために必要なキャストにしています。

池ノ辺 プラモデルのように作りあげた作品を皆さんに劇場で観てもらって、そこからまた次の映画にもつながっていくわけですね。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
武内 英樹 (たけうち ひでき )

監督

1966年生まれ、神奈川県出身。90年、フジテレビ入社。95年に「剣道少女」で演出家デビュー。数々の人気作を手掛け、「神様、もう少しだけ」(98年)、「彼女たちの時代」(99年)、「電車男」(05年)、「のだめカンタービレ」(06・08年)、「デート~恋とはどんなものかしら~」(15年)ではザ・テレビジョンドラマアカデミー賞・監督賞を受賞。『のだめカンタービレ 最終楽章 前後編』(09・10年)で映画初監督を務め、『テルマエ・ロマエ』シリーズ(12・14年)、『今夜、ロマンス劇場で』(18年)、『劇場版 ルパンの娘』(21年)といった話題作を送り出す。『翔んで埼玉』(19年)では、第43回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞。22年にフリーランスとなって、『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』(23年)を監督。待機作に『はたらく細胞』(24年12月)がある。

作品情報
映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』

コロナウィルスが猛威を振るい日常を奪われた日本。国内どころか世界中が大混乱に陥る中、首相官邸でクラスターが発生、あろうことか総理大臣が急死してしまう。そこで政府が実行した最終手段、それは「AI・ホログラムにより歴史上の偉人たちを復活させ、最強内閣をつくる」という前代未聞の計画だった。そんな中、女子アナ志望の若手テレビ局員・西村理沙はスクープを取ろうと政府のスポークスマンである坂本龍馬に近づくのだが、ひょんなことから偉人ジャーズの活躍の裏に渦巻く黒い思惑に気付いてしまう。

監督:武内英樹

原作:「もしも徳川家康が総理大臣になったら」(著:眞邊明人 発行:サンマーク出版)

出演:浜辺美波、赤楚衛二、GACKT、髙嶋政宏、江口のりこ、池田鉄洋、音尾琢真、小手伸也、長井短、観月ありさ、竹中直人、野村萬斎

配給:東宝

©2024「もしも徳川家康が総理大臣になったら」製作委員会 

公開中

公式サイト moshi-toku.toho

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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