Jan 27, 2024 interview

久保茂昭監督が語る 原作への愛、アイヌへのリスペクトが生み出した『ゴールデンカムイ』

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原作への愛、アイヌへのリスペクトが生み出した熱くてリアルな現場

久保 今回の撮影にあたっては、僕はできる限りリアルなものでキャスト陣を迎えたいと思いました。キャラクターたちがリアルで生きているような空間をつくる。僕はそこに専念して、その思いを本当にスタッフたちが汲み取ってくれて、本気で準備してくれました。そういうところをキャスト陣も感じ取ってくれたと思います。

池ノ辺 確かに全てがリアルに感じました。あの寒さも。

久保 普通だったらとても肌を出していられないくらいの寒さで‥‥。30秒で肌などが痛くなる。そんな中で、みんな頑張ってくれて、たとえば矢本悠馬くんなど、雪の中を裸で走るなんてことをやってくれました。

池ノ辺 川でびしょ濡れになったり、もう、観てるこちらが寒くなりましたよ(笑) 。とにかく原作の世界がそのまま映像化され、リアルに表現されている。アクションもすごくてちょっと笑えるところもあって、本当にエンターテインメントとして素晴らしいと思いました。

久保 ありがとうございます。

池ノ辺 今回、役作りで山﨑さんは体重を増やしたとか。

久保 撮影が始まる半年くらい前に、初めて会ったんです。そのときに僕は「杉元ノート」というのを作り山﨑くんに見せたんです。原作の中の杉元が出てくるシーンを抜き出して、彼はどういうふうに戦うとか、肉体も、こういう感じに仕上げて欲しいと見本の写真まで付けて。ここまでやってきてほしいと伝えたら、本人が頑張って半年ほどで約10キロ筋肉を増やしてくれたんです。普通だったら2年くらいかかるところです。

池ノ辺 ただ体重を増やしたわけじゃないんですね。

久保 筋肉です。首もふた周りくらい太くなって、最初に合わせた衣装が使えなくなっていました。

池ノ辺 がっしりした上に顔つきまで変わっていて、違う人なんじゃないの? と思ったくらいです。

久保 その言葉は一番嬉しいです。

池ノ辺 スタッフの皆さんも相当頑張られたんですね。

久保 今回は、特に撮影監督の相馬大輔さん、アクション監督の下村勇二さんと僕の3人で組んで進めました。下村さんは『キングダム』シリーズも担当されていて、相馬さんは、場数が多く雪での撮影もすごく研究されていました。僕ももちろん勉強はしているんですが、それ以上に、段取りを詰めて、ちゃんとお芝居が撮れるように、現場の空気をつくってくれました。

衣装も美術もそうです。アイヌの衣装など、実際にアイヌ工芸家の方に手縫いで作ってもらいました。衣装だけでなく小道具一つに対しても、皆がそこに想いを寄せてそれがどんどん熱くなっていく。それが現場で生きたように思います。この撮影では、明治の北海道のお話というだけでなく、特にアイヌへの想い、リスペクトの気持ちというものが皆さんにすごくあって、そこから皆が一つになっていく、そんな感じがしました。

池ノ辺 素晴らしい現場ですね。

久保 アイヌの方たちも現場に来てくださって、炊き出しをしてくれたんです。オハウ(アイヌ語で汁物)などを振る舞ってくださったんですが、美味しかった。アイヌの方々もこの原作が大好きで、この映画に対してもすごく協力的で、そこは本当に感謝しています。

池ノ辺 そうした思いも、皆に伝わったんですね。

久保 スタッフ皆、原作が大好きで、しかもその原作に負けない実写化をしようと、そんな意気込みがすごかったんです。スタッフの熱がキャストにも伝わって、同じ気持ちで演じてくれた。本当に原作への愛が半端ない現場だと、そんな感じを常に受けていました。

池ノ辺 原作の野田サトル先生からは何かお話があったんですか。

久保 野田先生は、現場にも来てくださったんですが、「何があっても味方でいるよ」と言ってくださって、また泣きました(笑)。

池ノ辺 涙もろいんですね(笑)。

久保 そうなんです。特に賢人くん演じる杉元と、山田杏奈ちゃん演じるアシㇼパ、そして矢本くん演じる白石。この3人のお芝居が本当に大好きで、終わったときにまた号泣してしまってスタッフからいじられました(笑)。原作がすごく好きだったんですけど、それと同様に彼らが演じる今回のキャラクターが大好きでした。

池ノ辺 その思いは、全部スクリーンから皆さんに伝わっていますよ。