未来につなげるための事業終了という選択
池ノ辺 東現の事業を終了するという話は、いつ頃から出てきたんですか。
矢部 具体的になったのはここ2年くらいですが、そもそも僕がきた時に、すでにどうしようか、という話も出ていました。つまり、うちは、フィルムの時代にはプリント、デジタルになってからはDCP(デジタルシネマパッケージ)の量産でなんとか利益を得ていたわけですが、それが配信によって全国の劇場に届けられるとなると、大きく利益が落ち込む。会社存続のためには、どうやってどこから利益を得たらいいのかということが、私がここに来た時にすでに大きな課題でした。
それでいろいろ考えてみたんだけれど、DCPに変わるものは見つけられなかったということです。ずいぶん悩みましたけれど、これ以上引き延ばしても単に問題を先送りするだけ、状況が悪くなるだけだということから、自分が社長として決断しなくてはならないと思いました。そして東宝などとも相談して、リストラではなく、全事業終了ということになったんです。
池ノ辺 リストラではないということは、技術者の方たちは違う会社に移られるんですか。
矢部 この春からすでに数名が(株)IMAGICAと東宝の新しい会社、(株)シネマコネクトで働いています。字幕担当者では(株)IMAGICAエンターテインメントメディアサービスと(株)ニュージャパンフィルムに1名ずつ行きました。あとはDI事業、映像編集事業、アーカイブ事業は、東宝グループに承継されることが決まっています。
池ノ辺 せっかく素晴らしい技術を持っているわけですから、それはこれからも活かしていきたいですよね。
矢部 そういう意味では、とにかく3つの可能性のある事業が残せたのは良かったと思っています。あとは、そこに入らなかったスタッフのことを考えていかなければいけない、というところです。
池ノ辺 「映画が好き」という単純なところからご本人には思いがけない形で映画に関わってこられた矢部さんですが、矢部さんにとって映画とは何ですか。
矢部 ものすごく大事なものです。もちろん楽しいだけで観ていられた時期もありましたが、特にこの2年、とにかく映画を観るとエネルギーをもらうんです。ですから今はできる限り映画館に行って映画を観るようにしています。「そんなに観てるの?」っていうくらいね。他に趣味もないので、映画館に行って座って観ているだけですが、出てくる時にはちょっと元気になっています。
池ノ辺 仕事としての映画はどうでしたか。
矢部 こんなに楽しい仕事に就けてよかったなと思います。東京現像所も、それまでの宣伝とは違う畑でしたが、オリジナルのクリエイティブなところに関わっていられたのは幸せだったと思います。こういう結末になりましたけどね。映画会社に入って、映画に近いところでずっと仕事ができているというのは、本当に幸せなことです。そうじゃない人もいっぱいいますから。
池ノ辺 東現を退かれた後は、何か予定があるんですか。
矢部 今のところは白紙です。何かひらめくものがあれば、そこからやればいいかなと思ってます。
池ノ辺 ひとまずは、お疲れさまでした。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 吉田周平
株式会社東京現像所 代表取締役
1959年生まれ。1983年に東宝入社。宣伝プロデューサーとして数多くの作品に参加。2003年に宣伝部長を経て、2005年に系列会社の東宝アドへ出向、専務取締役(営業担当)となる。2015年に東京現像所へ移籍し代表取締役社長就任。東京現像所は2023年11月末で惜しまれつつも全事業を終了する。
東京現像所は、1955年設立にされ、フィルム時代から今日に至るまで68年にわたって、映画・アニメ・TVを中心とした映像の総合ポストプロダクションとして数々の名作を送り出してきた。2023年11月30日 に、惜しまれつつも全事業を終了。東京現像所が携わった作品の解説やスタッフインタビューなどをお届けする特集企画。
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