Sep 02, 2023 interview

製作面で支え続けた 齋藤朋彦が語る 山田洋次監督の作品と吉永小百合が新たな境地をみせた『こんにちは、母さん』

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「そんなところに目が行くようだったら、僕の演出は終わりだよ」

池ノ辺 齋藤さんにとって映画とは何ですか。

齋藤 これは作っている側からの思いということになりますが、毎回初日には映画館に足を運ぶんです。そこでお客さんがその映画を観て泣いたり笑ったり、あるいは怒ったり、感動してくれる。それを見るたびに、ああよかったなと思うし、嬉しい。それが自分にとっての映画かなと思います。そして人に感動を与えられるような映画を世に出していけるように、山田監督の側で少しでも力になれればいいと思っています。

池ノ辺 映画ってそういうものですよね。みんな元気をもらってます。

齋藤 山田監督がすごいと思うのは、脚本から撮影の段階でさらに良くなっていくというところなんです。僕の中では、脚本より悪くなったとか、あれはやめておけばよかったということは一度もないですね。

池ノ辺 監督の中では仕上がりが見えているんでしょうね。あとは、スタッフの皆さんの力でそれ以上のものができるんだと思います。

齋藤 確かに、脚本だけじゃなくて、それぞれの現場でみんなが一緒にいちばんの良さを引き出そうと思って動いているというのは大きいかもしれません。山田監督も初日の舞台挨拶を終えると必ず劇場で一緒に観ています。やっぱりお客さんの反応は気になりますし、感動して喜んでいただけると僕らも本当に嬉しいです。

池ノ辺 それが映画が続いている理由ですね。

齋藤 映画館で一緒に観るというのがいいんですよね。一つ、思い出したエピソードがあります。『男はつらいよ』の48作目(1995)、東京八王子の老人ホームで撮影をしていたんですが、その施設は別の場所にあるという設定だったんです。その時に急遽、タクシーがその施設から出るシーンを撮りたいということになったんです。でも替えのナンバープレートを持っていなくて、僕が「八王子ナンバーの車ですけど大丈夫ですか」と聞いたら監督が、「齋藤くん、そんなところに目が行くようだったら、僕の演出はもう終わりだよ」と言われました。ナンバーなんかどうでもいいと。

池ノ辺 確かに、観ているお客さんが物語に入り込んでいたら、そんなところは目に入らないです(笑)。これからもまだまだ山田監督は作っていくでしょうし、齋藤さんもずっと元気で一緒にやっていくということですね。

齋藤 やっていきたいですね。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
齋藤 朋彦(さいとう ともひこ)

株式会社 松竹映像センター取締役

1958年、神奈川県横浜市出身。井上梅次監督の助手として業界デビュー。その後、松竹大船撮影所製作部契約社員として働き、1994年 松竹㈱入社。2014年 ㈱松竹撮影所取締役、2017年より現職。携わった作品は、山田洋次監督の『家族はつらいよ』第44作~第50作、『学校』Ⅱ~Ⅵをはじめ、『武士の一分』『母べえ』『母と暮せば』『たそがれ清兵衛』『釣りバカ日誌』シリーズなど多岐にわたる。

作品情報
映画『こんにちは、母さん』

大会社の人事部長として日々、神経をすり減らし、家では妻との離婚問題、大学生になった娘との関係に頭を悩ませる神崎昭夫は、久しぶりに母•福江が暮らす東京下町の実家を訪れる。「こんにちは、母さん」しかし、迎えてくれた母の様子が、どうもおかしい‥‥。割烹着を着ていたはずの母親が、艶やかなファッションに身を包み、イキイキと生活している。おまけに恋愛までしているようだ。久々の実家にも自分の居場所がなく、戸惑う昭夫だったが、お節介がすぎるほどに温かい下町の住民や、これまでとは違う“母”と新たに出会い、次第に見失っていたことに気付かされてゆく。

監督:山田洋次

原作:永井愛「こんにちは、母さん」

出演:吉永小百合、大泉洋、永野芽郁、寺尾聰、宮藤官九郎、田中泯、YOU、枝元萌、加藤ローサ、田口浩正、北山雅康、松野太紀、広岡由里子、シルクロード(フィッシャーズ)、明生(立浪部屋)、名塚佳織、神戸浩

企画・配給:松竹

©2023「こんにちは、母さん」製作委員会

公開中

公式サイト konnichiha-kasan/

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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