『こんにちは、母さん』で吉永小百合の新たな境地
池ノ辺 そして今回の山田監督の最新作が『こんにちは、母さん』。この企画は、いつ頃から出てきたものですか。
齋藤 これはもう、僕が知らないくらい前から、こういう企画がいいなと山田監督があたためていたものの一つですね。おそらく20年くらい前からだと思います。山田監督は「齋藤くん、僕はいつもやりたい企画を5つくらい持っているんだ」と言っています。その中の一つでしょうね。
池ノ辺 じゃあ現時点で少なくともあと企画が4つはあるんですね。
齋藤 そうです。歌舞伎を題材にした、脚本までできているものもあって、「監督が撮らないなら僕にください」と言ったんですけど、くれませんでした(笑)。
池ノ辺 きっと全部監督がやりますよ。お元気ですもん(笑)。『こんにちは、母さん』は、どこで撮影されたんですか。
齋藤 スタジオは東宝です。先行して約1ヶ月、向島を中心にしたロケをやって、その後、吉永小百合さん演じるお母さんの家を東宝撮影所につくって20日くらいでクランクアップしました。
池ノ辺 これまでの吉永さんより若々しくて綺麗で快活な印象でした。
齋藤 これまでの吉永さんは、『母べえ』(2008)にしても子どものお母さんという役でしたけど、今回は初めて大人の息子がいて孫もいて、という役です。吉永さんは「私はこういうのできるかしら」とおっしゃっていたようですが、「そういう吉永さんを見たいんです」と口説き落としたようです。
池ノ辺 息子の大泉洋さんも、失礼ながら「こんなにうまかったっけ?」と思わされるような(笑)。いや、もちろん、うまい役者さんなんですけどね。素敵な作品だから寅さんみたいにシリーズになるのかなと思ったら‥‥。
齋藤 それはないんです。
池ノ辺 吉永さんが、現代のリアルなお母さんという感じで、息子が抱えている問題も、今の社会の抱える悩みだと思いましたし、でもそういう辛いところさえも笑って吹き飛ばす、そういう感じが山田監督らしくて、観てよかったなと思いました。
齋藤 そこを感動していただけると嬉しいです。
池ノ辺 今回の舞台は足袋屋さんなんですよね。
齋藤 実際に向島で今もやっている足袋屋さんです。教会の場面は、向島の本物の教会が協力してくださって撮影できたんです。東京大空襲の犠牲者の碑があるところなんですよ。
池ノ辺 劇中での吉永さんの「これからどうやって生きていくの」という問いは、まさに今の時代に私たち一人一人に向けられた問いのようにも感じました。いい映画でした。
池ノ辺 撮影は順調だったんですか?
齋藤 約2カ月の撮影で、もちろん週に1度は撮休がありますが、連日、91歳になったばかりの監督が最初から最後まで演出してやり抜きました。
池ノ辺 演出は助監督がやっているのかと思いました。
齋藤 芝居は監督が全部自分でつけます。