映画は鏡、時代や人を映し出す。自分はそのための職人でありたい
池ノ辺 監督は日本大学芸術学部映画学科のご出身ですが、映画をつくりたいと思ってそこに入ったんですか。
藤井 それは全く考えていませんでした。もともと3歳から18歳まで、剣道しかやってこなくて、大学も剣道で推薦を受けて入るつもりでした。ところが思いがけず落ちてしまって、まさか落ちると思っていなかったんで、得意の英語を活かして海外の大学にでも行こうかとも思ったんです。
でも、とにかく日本の大学も受けようと、少ない科目で受験できるところを探しました。その中に日芸の映画学科がありました。なんて楽そうな学科だろうと思って受けて合格して、そこで映画のとりこになりました。今は36歳ですが、18歳からはずっと映画の人生です。
池ノ辺 そんな監督にとって映画とは何ですか。
藤井 プロになってから自分に言い聞かせているのは、鏡であるということです。時代や人柄やその人の人生を、合わせ鏡のように写し鏡のように照射させるというところに僕は惚れたので、そういうものに従事する職人でいたいと思っています。自分にとっては映画は人生そのものです。これはドラマもそう。僕からするとずっと撮っていられる長い映画のようなものですからね。そして形は違っても僕らは基本、映画館で映画を流す職業ですから、しっかり鏡を照らし映しだすという仕事をちゃんとやっていきたいと思っています。
池ノ辺 このコロナ禍の3年間で時代はあっという間に変わりました。そして今、ようやく終わりが見えてきて、実際にも桜が咲いて私たちにとっても新しいスタートになりました。これからの日本は、そして映画はどうなると思いますか。そして、監督はこれから何を撮っていきたいと思いますか。
藤井 僕としてはもっと外へ出ていきたいという気持ちがあります。例えばですが『RRR』を作っている会社と映画を作ったりとか‥‥。
池ノ辺 いいですね。私、以前あの『RRR』のラージャマウリ監督にインタビューさせてもらった事があるんですけど、もはや考え方がインドだけに留まっていない、ラージャマウリ監督が見ているのは世界でした。本当に、コロナであっという間にいろんなことが変わって、それまで考えもしなかったことができるようになっています。
藤井 そういうときでも、中に戻るのが日本人だと思うんですよ。「出られるんだよ、ゲートはオープンされてるんだよ」と言われているのに、「いや、俺はいいよ」となってしまう。そうじゃなくて、誰も俺らのことは期待していないんだからくらいの気持ちで、バンジージャンプのように飛んで、行ってから考えよう。今まさにそうやって36歳からの第2章が始まればいいという思いで漕ぎ出しているところです。
池ノ辺 これからの作品も楽しみにしてます。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
写真 / 岡本英理
監督
東京都出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(14)でデビュー。以降『青の帰り道』(18)、『デイアンドナイト』(19)など精力的に作品を発表。『新聞記者』(19)は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。以降、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)、『ヤクザと家族 The Family』(21)、「アバランチ」(21/CX)、「新聞記者」(22/Netflix)、『余命10年』(22)と話題作が次々に公開。待機作に『最後まで行く』(5月19日公開) がある。
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監督・脚本・:藤井道人
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
出演:横浜流星、黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗、中村獅童、古田新太
配給:KADOKAWA/スターサンズ
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