Mar 17, 2023 interview

堀切園健太郎監督が語る 役者たちの熱い演技が、ドラマをいっそう深くする「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」

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人の生き死にを問うこと、弱者の目線を忘れない、そんなドラマを作り続けたい

池ノ辺 今回のドラマは、海外での撮影や、よく知られていない職業を描くなど、いろいろ大変なところがあったと思います。

堀切園 まず大前提として、彼らの仕事が死を扱うものですから、死に直面しなくてはならない。しかも、海外で亡くなったご遺体を日本に、という場合、ご遺体の損傷がひどいことが多いんですね。そういうご遺体に対峙しなくてはならないわけです。そこは彼らの仕事の容赦ない過酷さだと思うので、そこをどう描くかというのは難しいものがありました。

損傷している遺体にしても、きれいにした後の遺体にしても、本物を持ってくるわけにはいかないですから。そこにどうリアリティを持たせるか、その表現がすごく難しいと思いました。実際、写真など見せてもらうと、「ああ、お母さんが帰ってきた」と思えるような綺麗な状態に戻してあげているんです。それをどう描くかは難しかったです。

池ノ辺 海外で亡くなった日本人を、家族のいる日本に連れて帰ってくる、家族の元に送り届けるというのは、こういう人たちじゃないとできないのかもしれないですね。

堀切園 確かに、本当に力技でやらないと、という部分もあります。社長の「魂を掴み取ってくる」という言葉に象徴されるようなことというのは、なかなかできることではないですよね。ここまで力強く最後まで丁寧にというのは、この会社ならではだと思います。

池ノ辺 監督はNHKでも印象的なドラマを作っておられますが、監督にとって、ドラマで自分を表現することの意味はなんでしょうか。

堀切園 かっこいいことは言えないんですが、僕にとってドラマを作るというのは、究極的な人の生き死にを扱うことだと思うんです。それは今回紹介した職業にも通じるところがあるんですが、だからこそきちんと向き合わなければいけないと考えています。それはリアリティだったり誠実さだったり、とにかくそこに対しては真摯に向き合いたいと思っています。

それと、これは昔から大事にしたいと思っていることですが、不器用な人の不器用な部分を、人間の可愛らしさとして描いて、肯定したり受け入れたりできるようなものを作りたいと考えてきました。今の世の中って、人に対してものすごく正しさを求めて過度に攻撃的になっている気がします。もちろん悪いことをすればそれに見合う形で罰せられるというのは必要だと思いますが、必要以上に攻撃される、そんな窮屈さが感じられます。

でも人ってそんなにいつも正しくは生きられないし、サボる時もある。その一方で、ものすごく頑張ったけど報われないこともいっぱいありますよね。生き死にを扱うことと弱者の目線を忘れないこと。それは自分が大事にしたいと思っています。これまでいろんなドラマを手がけてきましたが、「外事警察」(2009年) にしても「未解決事件 ロッキード事件」 (2016年)にしても、権力を持っている人たちの話なんですけど、それを全肯定するようなものじゃなく、そういう視点を持って描きたいというのがありました。

池ノ辺 監督の手がけられたドラマはどれも面白いし、明日も頑張ってみよう!という気にさせてくれますよね。「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」は全世界に向けての配信です。今後のさらなる活躍を楽しみにしています。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
写真 / 岡本英理

プロフィール
堀切園 健太郎(ほりきりぞの けんたろう)

演出家、映画監督

1970年4月6日生まれ、埼玉県出身。1994年明治大学法学部卒業後、NHKに入局。2004年から1年間ハリウッドに留学し、映像制作を学ぶ。手掛けた作品は、連続テレビ小説「ちゅらさん」(01年)、土曜ドラマ「ハゲタカ」(07年~)、大河ドラマ「篤姫」(08年)、土曜ドラマ「外事警察」(09年)、正月時代劇「幕末相棒伝」(22年)など。

作品情報
Amazon Original ドラマ「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」

口は悪いが情に厚い女社長の伊沢那美を筆頭に、新入社員の高木凛子、マニアックな遺体処置のスペシャリスト・柊秀介、元ヤンの若手社員・矢野雄也、噂好きな手続担当・松山みのり、温厚だが得体のしれない運転手・田ノ下貢、金勘定にうるさい強面の会長・柏木史郎らクセの強い社員たちが国際霊柩送還士として働いている。

監督:堀切園健太郎

脚本:古沢良太 香坂隆史

原作: 佐々涼子「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(集英社文庫刊)

出演:米倉涼子、松本穂香、城田優、矢本悠馬、野呂佳代、織山尚大(少年忍者/ジャニーズJr.)、鎌田英怜奈、徳井優、草刈民代、向井理、遠藤憲一 ほか

制作:NHK エンタープライズ

Prime Video にて独占配信中

視聴サイト https://www.amazon.co.jp/dp/B0B66GL9PH

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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