Mar 17, 2023 interview

堀切園健太郎監督が語る 役者たちの熱い演技が、ドラマをいっそう深くする「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」

A A
SHARE

役者たちの熱い演技が、ドラマをいっそう深くする

池ノ辺 国際霊柩送還の会社の社長である伊沢那美役の米倉涼子さんは、「ドクターX」では患者が生きるために病気を治す役でしたが、今回は亡くなった方をケアするという立場でした。米倉さんもモデルとなった社長ご本人にはお会いしているんですよね。

堀切園 もちろんです。社長は僕らと会った時も、「わー、よろしくねー」とハグしてくるようなキャラクターなんですけど、米倉さんに対しては、「私とそっくりね。妹みたい」と、逆に米倉さんの方が圧倒されていました(笑)。

ただ、実在のモデルがいて、さらにその方が監修などで現場にも居るとなると、その人の姿が全部正解になって、そこに合わせていくことに力を注いで演技の幅が狭くなってしまう可能性もあるんです。ドラマは別にその人を再現することが目的ではないですから、その距離感は難しいと思って僕らも気を遣っていたんです。でも、そこは米倉さんがうまく距離感を保って、必要なところは近づいていって、「ここはどうするんですか」とか「こんな時はどう動くんですか」と聞く。一方で「ここは自分の思うように思い切りやる」、というところもあって、やっているうちに、米倉さんに役が乗り移ったかのような演技が出てきたりして、それはすごかったです。

池ノ辺 米倉さん、すごくかっこよかったですね。今までとはちょっと違って、自分の感情を表に出して、なおかつ生きることや死ぬことをすごく大切に表現していて、新たな米倉さんという感じでした。

堀切園 米倉さんは、いつも「ドクターX」みたいな芝居をする人なのかなと思って、どうかなと思っていたんです。ただ、一番初めに米倉さんにお会いした時に、今回は「ドクターX」のような表現はやめましょう。今回は違うアプローチでいきましょう、という話はしました。もちろんどちらも職業ものですから重なる部分はあると思いますし、「ドクターX」は面白くて僕の妻も毎回見ていますけど、同じものを作ったら意味ないですからね。違う表現をしましょうと。それで彼女の方から、喋るキーを低めにしたり、髪をバッサリ切ったりとしてくれました。

実際、撮影が始まると、米倉さんというのはすごく繊細で、初日は無茶苦茶緊張していました。しかも、周囲への気遣いが本当にすごいんです。決まった芝居しかしないなんてことは全くなくて、自分で考えてここはこう演じたいというのはあるんですけど、リハーサルや現場の状況、あるいは僕が言ったことを受けて、どんどん柔軟に芝居を変えていくんです。そこで相対している役者さんの動きによっても芝居が全く変わる。

池ノ辺 それはすごいですね。

堀切園 米倉さん自身も取材で言ってましたけど、「私は今までこんなに現場で泣いたことがない」と。あれは本当の話です。自分が撮られていないときでも涙を流している。それくらい役に入り込んで芝居をしてくれていました。ですから、僕も全面的に信頼できました。

池ノ辺 役者魂ですね。他もずいぶん個性的な役者さんたちが揃っていますね。私は、新入社員 高木凛子役の松本穂香さんのファンなんです。これまでの彼女の芝居を見てきて、この先どんなふうに変わっていくのか楽しみにしているんです。監督からみて彼女はいかがでしたか?

堀切園 彼女は米倉さんとはまた違うタイプの女優ですね。若いんですけど台本もちゃんと深くまで理解して、演技もしっかりしている。今回の日本アカデミー賞の助演女優賞にもノミネートされてますが、今後もそういった賞をいっぱい取る、映画やドラマになくてはならない存在にもっとなっていくんだろうなあと感じました。

高木凛子というキャラクターは、今回のドラマでこの職業を初めて紹介するような役柄ですから、ドラマを観る人が彼女と同じ目線でいろんなことに驚きながらこの職業について知っていってもらえたらいいと思ったんです。かといって、よくあるドジっ子キャラで、失敗して泣きべそかいてという朝ドラのヒロインみたいなキャラクターはやめようねと、古沢さんとも相談して、那美と真逆のキャラクターにしたんです。那美が割と激情型というか感情に任せてアグレッシブに動いていくのに対し、凛子はすごく冷静で合理的な判断をしていく。

自己評価も低くていまどきの子なんだけれど、でもどこかに熱いものももっていて、毎回火事場のような現場で、彼女自身も何かを掴み取っていくというふうになればいいなと。そういう存在です。全6話を通して、凛子と母親の関係、それとリンクするような那美との関係、凛子がそこをどう乗り越えていくのかも描いています。

池ノ辺 一つの職業を描いたドラマですけど、そこには生きていく上での大事なことや、今まさしく社会で問題になっているような出来事がきちんと取り上げられている気がしました。

堀切園 そこはなるべくしっかり描くようにしました。

池ノ辺 那美の上司である会長を演じる遠藤憲一さんの演技も驚きました。

堀切園 遠藤さんとは何度も一緒に仕事をしているので、安心して任せられました。現場も支えてもらったし、それこそ、面白くできるところは彼が率先して皆を盛り上げてくれたので、ありがたかったです。