Sep 18, 2022 interview

原田眞人監督が語る 『ヘルドッグス』は暴力を介した男たちのラブストーリー

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いいロケ場所、いいキャスティングが相乗効果をもたらす

池ノ辺 撮影はコロナ禍でどれくらいとまっていたんですか?

原田 ほぼ1年延期になりました。ただ、その期間は、次の作品とか次の次の作品の脚本を書いたり、この『ヘルドッグス』をもう一度練り直したり絵コンテを描いたり、考える時間が十分にありましたから、準備の時間が取れたということではよかったと思います。

今の時代は本当に何が起こるかわからないですから。そういう時にネガティブになるんではなくポジティブに捉えて、じゃあ今何ができるのかと、そういうところで戦闘能力を高めていくしかないですよね。幸いにも撮影中は感染者が出なかったので、それはとてもラッキーだったと思います。

池ノ辺 撮影の時にコロナに感染して撮影がストップしたという話もあちらこちらで結構聞きましたから、それはよかったです。

原田 もちろん、かなり注意深く撮影を進めました。ロケも福島や伊豆などにいきましたから、そういうところで疲労しないようにと。徹夜でやるような現場ではなかったですし、僕自身撮影がダラダラと長引くのは避けたかったですからね。実際、自分もちゃんと睡眠時間を取らないと発想が豊かにならないんです。

撮影というのは、もちろん事前に準備はしていても、現場で役者やその場とのキャッチボールでまた新しいものが出てくる。そうして出てきたものをきちんとピックアップして、いいアクシデントを記録していくためには感性を鋭く保っていなければならないし、そのためには十分な睡眠と美味しいもので、精神を豊かにしていないといけないんですね。

池ノ辺 その通りですね。今回の撮影では、いろんなアクシデントも、いろんな形で生かされたんでしょうね。

原田 たとえば、福島では、ヘレナ国際カントリー倶楽部の隣に廃屋となった巨大ホテルがあって、こんなに素晴らしい建物が営業できなくなったんだというくらいの場所で、そこにいくと、ここをこう使おうとか、そこはああ使おうとか、いろんな発想が出てきて、岡田くんもその現場を見てアクションの発想を高めていったり、そういうことができたんです。

つまり、いいロケ場所との出会いが、キャスティングとの出会いとで相乗効果をもたらしてくれるんですね。今回は、いろいろ制約がある中で制作部ががんばって僕が知らないような場所を探してきてくれました。導入部の伊豆の旧らんの里堂ヶ島もそうです。

池ノ辺 あれは、私はずっと東南アジアに撮影に行ってたんだと思ってました。

原田 もともとの発想が、フィリピンもしくはタイの刑務所から始まるという発想で、当然プロデューサーにはフィリピンにロケハンに行ってもらって、僕も行く予定になっていた時にコロナ禍が始まっちゃって、結局そこは諦めたんです。

ただ、諦めたんだけど、できるだけ日本に見えないようなエキゾチックな場所というのを探し出してくれて、それが伊豆の旧らんの里堂ヶ島だったんです。ですから、妥協はしたけれども結果的にはその妥協がプラスになったと思います。

池ノ辺 あれは本当に外国に見えました。それから福島のゴルフ場も、広がりと奥行きがあって、すごく面白い映像でした。

原田 もう何本も一緒にやっている柴主高秀カメラマンが、映像的にも頑張ってくれました。ですから、潜入捜査官ものとしてはかなり上質のビジュアルになっていたんじゃないかと思います。ヨーロッパやハリウッドの古き良き時代のフィルム・ノワール的な雰囲気が出てくればいいなと思ったんです。